駆動方式とは?

 電気車は電気の力をコントロール、つまり制御をします。これを「制御方式」と言い、様々なものを『電気車の動く仕組みその2』でご紹介しましたね。
 その制御方式により、電動機(モーター)を動かします。ただ、電気を流して動かしているのでしょうか。それは違います。電動機は台車枠に載せられて固定されています。いっぽう、車輪はレールや車輛間などあらゆる方向から力が伝わり、様々な方向に対応できる、つまりある程度の自由がきくようにようにばねを用いて、固定しています。
 この固定された主電動機と、動く車輪に動力を伝えるのが『歯車(ギア)』です。この歯車は双方にしっかりと接しており、このまま走らせると動き回る車輪に付いた歯車と固定された主電動機の歯車では噛み合わせにずれが生じ、最後は壊れてしまいます。それを解決するのが駆動方式の役割となっています。

駆動方式のいろいろ
●吊り掛け(つりかけ)駆動方式(nose suspension drive)

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米国人発明家フランク・ジュリアン・スプレーグ(1857~1934年)が1887年(明治20年)に架空電車線と共に発明した方式。路面電車に採用された事から、「スプレーグ方式」とも言われます。
電車や電気機関車など電気車における、主電動機から輪軸に動力を伝達する方式の一つ。手法として単純であり、古典的な方式となっています。釣り掛け式や吊り掛け支持装置などと言われる事もあります。
先程も言いましたように、輪軸と主電動機のお互いの歯車の噛み合わせが重要なポイントで、吊り掛け駆動方式では主電動機と輪軸を平行に配置し、主電動機軸に設けられた小歯車が輪軸側に設けられた大歯車を直接駆動させ、輪軸を中心とした円周上で主電動機の軸が動くようにし、距離を一定にするようにしています。
解り易く言えば、主電動機を固定するのではなく、輪軸と共に多少の動きを持たせた方式というと解り易いでしょうか。

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主電動機の取り付け支持をするため、主電動機にはノーズ(突起)という部品が付けられ、それを台車枠の横梁に固定します。ノーズの上下にはばねや防振ゴムで挟んで、輪軸の動きに対応します。この方法をノーズ・サスペンション方式と言います。この他に、軸距の短い台車を履く路面電車や軽便鉄道の台車や小型車輛にはバー・サスペンション方式というものがあります。(写真右)
両方の方式は、主電動機が輪軸と台車枠に吊り掛けられたように見える事から吊り掛けという呼び名が付きました。
吊り掛け駆動方式の長所と短所
長所
・動力を伝えるために最小限の構成となっており、場所の限られる狭軌の鉄道でも使用し易い。
・構造が簡単
・製造費が安価
短所
・主電動機の重量の約半分が台車の軸ばねを通らず、輪軸に伝わるためばね下重量(軸ばね以下の重量。軽いほど線路に追従し易い。)が重くなり、線路に対して強い衝撃を与える事になります。これはひっくり返して線路から台車や主電動機にも強い衝撃があるという事です。高速運転になると乗心地が著しく悪くなり、あまり適さない。
・上記のように衝撃に常にさらされる事から、主電動機は丈夫な設計が必要。これによりばね下重量も増えるので、高速運転を求めると悪循環となってしまう。
・主電動機と輪軸の接する部分(摺動(しゅうどう)部分)や歯車のメンテナンスが大変。
日本では早くも明治23年にスプレーグ方式の路面電車が持ち込まれ、東京上野公園で催された内国勧業博覧会に出品され、明治28年に日本では初めての電車である京都電気鉄道(後の京都市電)がこの方式を採用し、電車や電気機関車の駆動方式として採用されていきました。しかし、輸送力増強を必須とする大手私鉄では、電車の性能向上に早くも取り組み始め、カルダン駆動方式を普及し始め、国鉄も後にカルダン駆動方式に転換していきます。現在では電車では路面電車に多く見られていますが、新製はされていません。JRや大手私鉄では見ることが出来なくなりました。一方、電気機関車では途中、別の方式も模索しましたが、大出力を必要とする事から吊り掛け駆動方式を採用した電気機関車が製作されています。

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吊り掛け駆動方式を採用している電気機関車。(マワ車所蔵

クイル式駆動方式(Quill drive)

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吊り掛け駆動方式は、主電動機と輪軸が直接接しており、走行中の振動によって線路を傷めるほか、主電動機を強固に設計する必要があり、結果として重量が増してしまうといった問題がありました。そこで、主電動機を宙に浮かせる事(難しい言葉では無装加駆動方式と言います。)で吊り掛け駆動方式の欠点を軽減できないかな。と登場したのがこのクイル式駆動方式で、ウェスティングハウス・エレトリック社(米)で開発され、外国の電気機関車に多く採用されました。
主電動機を台車枠に固定し、主電動機に短い中空軸(クイル)を固定させます。中空軸とは、中心部が空洞になっている筒と思って下さい。ちくわやマカロニのようなものです。
このクイルの中に車軸を通し、外側にベアリングを設けた大歯車を設置、主電動機からの小歯車で駆動させます。車輪からはスパイダ(支持腕)を介して大歯車からの駆動力を緩衝ばねを通じて伝わる仕組みとなっています。スパイダは5~8本程度あり、台枠と車軸の位置関係の変化にも駆動力が変わらず伝達される仕組みとなっています。
日本では、EF60形1次車などに採用されましたが、スパイダと大歯車の部分に砂やほこりが溜まり、摩耗や噛み合いが悪くなって異常振動を起こす問題があり、吊り掛け駆動方式に戻っています。
クイル式駆動方式の派生方式
 クイル式駆動方式の大歯車と車輪を結ぶ方法を見直し、その結ぶものが異なっています。
リンク式駆動方式
 クイル式の欠点に大歯車が露出し、異常振動を発生させるほか、空転時にも異常振動を発生させる問題があり、これを改善した方式で、駆動力の伝達方法をリンクに変更したものです。外国では機関車や電車に多く採用されましたが、日本ではED60形式など初期の新性能電気機関車、EF61形式のクイル式駆動装置の改修工事、JR貨物はEF200形式が新造時に採用されたのみとなっています。

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JRでは現在の所、唯一の採用例となっているEF200形式

中空軸可撓(かとう)吊り掛け駆動方式
 半吊り掛け式駆動方式とも言われる、クイル式と吊り掛け式の中間的な方式です。主電動機の重量を台車枠と中空軸に担わせるため、ばね下重量が吊り掛け駆動方式と同じ。しかし、輪軸から主電動機への衝撃の軽減が図られています。EF66形式のみに唯一採用した方式です。

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デビュー時には国内最強電気機関車と言われたEF66形式にこのようなパワーの秘密があったんですね。(マワ車所蔵

直角中空軸積層ゴム駆動方式
 欧州各地の電車やドイツ製路面電車などに広く採用されている駆動方式で、積層ゴムを用いて行うものです。日本ではドイツより輸入された広島電鉄5000形に採用されています。

カルダン駆動方式(cardan jointed drive)

 吊り掛け式駆動方式は衝撃や振動から主電動機を守るため強固な設計を必要とし、重量もあるため、線路を傷め易い。続いて登場したクイル式駆動方式はやや改善したものの、構造が複雑すぎてメンテナンスが大変。一方で、鉄道では電車が主流となりつつあり、高速化を求める時代へとなっていきます。これらの駆動方式では高速化が難しいという大きな問題があり、もっと良いものは出来ないかな。という事で誕生したのがこのカルダン駆動方式です。
カルダン駆動方式では、主電動機の重量全てを軸ばねを経由し、輪軸に伝えているため、軸ばねより下の重量、ばね下重量が小さくなります。この事で、線路のピッチング(うねり)やねじれ(ローリング)といった変化に車輪が追従し易くなり、安定した高速走行を可能としています。また、衝撃力が小さくなる事から騒音や乗心地を大きく改善する事ができます。主電動機も同様に直接、衝撃や振動を受けない事から必要以上に強固な設計をする必要がなく、小型化が出来ます。
駆動力の伝達方法では、『自在継手(ユニバーサルジョイント)』(※)を採用した事が大きな特徴です。ただの棒では車輪の動揺や衝撃を主電動機や歯車が受けてしまいます。そこで、自在継手を用いて角度を与えて伝わりにくくしています。
自在継手(ユニバーサルジョイント:universal joint)

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古くより羅針盤などに使用されたジンバルを原型としてつくられたもの。(ジンバル(Gimbal)とは1つの軸を中心とし、物体を回転させる回転台の一つ。)回転運動を様々な角度で伝達できる機構として、1545年イタリアの数学者ジェロラモ・カルダーノが発明した(どの様な機構かは不明。)ものに始まります。彼の名前を由来とし、カルダンジョイントとも言います。現在は十字継手など様々な種類があります。
自在継手から始まり、これから紹介するWN継手や撓(たわ)み継手などが登場します。これらは異なるものですが、目的が自在継手と同じことからカルダン駆動方式と呼んでいます。

直角カルダン駆動方式

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上の図のように、車軸と直角に台車枠に主電動機を固定し、カルダンジョイントが付いたシャフト(軸)とねじり傘歯車(スパイラル・ベベルギア)を介して車輪を駆動する方式です。構造が簡単であり、狭軌の場合でも主電動機の容積が大きく取れるなどのメリットがあります。一般的には図のような形式をウェスティングハウス式と言い、この他にドルトムント方式というものがあります。

中空軸平行カルダン駆動方式

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直角カルダン方式の欠点として、駆動装置が大きく、軸距が長くなってしまう。結果として台車が大きくなり、重量が重くなってしまうという事がありました。我が国の鉄道は狭軌が主体であり、いかにコンパクトにするか。というものも課題の一つにありました。コンパクトでありながら高出力であれば、高速化も容易となります。
そこで登場したのが、この中空軸平行カルダン駆動方式です。この方式は1941年(昭和16年)、ブラウン・ボベリ(スイスにあった電機メーカー)の開発した「ディスクドライブ方式」を原型としています。
主電動機の電機子軸を中空軸とし、両端に撓(たわ)み板継手を配置、中空軸の中にねじり軸(駆動軸)を通した構造となっています。この撓み板がこの方式のポイントで、輪軸の振動や衝撃は、大歯車と小歯車で構成された歯車装置を介し、撓み板継手が吸収します。高速走行であっても滑らかな動力伝達を可能としています。主電動機の直径がやや大きく設計する必要がありますが、WN駆動方式と比べると、電機子軸の方向の寸法を短く出来るため、狭軌を採用する鉄道に適した方式と言えます。

WN駆動方式

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高速運転に適する電車用駆動システムとして、電機メーカーのウェスティングハウス・エレトリック社と機械、歯車メーカーのナタル社(共に米国)の共同開発で誕生しました。「WN」とは両社の頭文字(Westinghouse-Natal)をとったもので、米国では「gear coupling」と呼ばれています。日本語訳をすると歯車形軸継手平行カルダン駆動方式と言います。ちょっぴり長いためか、WN駆動方式と呼ばれています。
開発した「WN継手」とはイメージ図右のような感じで、主電動機に付けられたカルダン軸(回転軸)に歯車を付け、主電動機の荷重をばね上の弾性支持としています。歯車とは異なり、全ての歯が噛み合っているのが特徴です。力の伝達の信頼性は高いのも特徴です。
構造的に高出力に耐えられる継手であるため、地下鉄や新幹線、私鉄各社、JR西日本で多くの採用例が見られます。WN駆動方式はアメリカ生まれ。アメリカは標準軌です。日本では、この標準軌を採用した鉄道会社から普及し始めます。昭和28年に登場した京阪電気鉄道1800形に最初に採用されました。その後、東京都電、営団地下鉄丸ノ内線へと普及を始めます。
日本の鉄道にある狭軌へは遅れての採用となります。1435㎜の標準軌から1067㎜の狭軌にWN駆動方式を採用するには、WN継手の小型化に加え、主電動機の小型化なども必要となり、開発には大変な苦労をしました。昭和31年、富士山麓鉄道(現:富士急行)3100形が主電動機出力55kwと低出力ですが、初めて狭軌用WN継手を実用化、その後主電動機の出力を75kwに対応した継手を実用化した長野電鉄2000系が登場します。

TD平行カルダン駆動方式

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中空軸平行カルダン駆動方式に代わるものとして、東洋電機製造が実用化したものです。WN駆動方式のWN継手を2組の撓み板を使う自在継手構造(ツインディスク:Twin Disc)にしたものです。
中空軸平行カルダン駆動方式よりも構造が簡単になり、軽量化も図られているため、中空軸平行カルダン駆動方式を採用した鉄道事業者を中心に採用されています。