信号機だけではダメなんだ。

みんなは「信号機を学んでみよう」を勉強してくれたかな。きっと、信号機の役割をわかってくれたよね。
鉄道信号で最も重要な信号が「停止信号」です。信号機が「停止」を現示するという事はその信号機の内方に何かがある。という事を伝えています。しかし、「停止」を現示しても、列車や車輛を止めることが出来ないのです。信号機はあくまでも、信号機の内方の状況やその先の情報を伝えているだけです。


運転士が前方の状況を把握し、停止現示に従えれば良いのですが、人は全てが万能ではありません。何らかの理由(信号現示の見落とし、勘違いや思い込み、本人そのものの異常など)により、また気象や地形などいずれか若しくは複数が原因となって、停止現示の信号機に止めれない(行き過ぎてしまう)事があります。停止現示を出している信号機の内方には、何があるか皆さんはもうわかりますね。停止現示を無視するという事は大きな事故で、この事故を『信号冒進(しんごうぼうしん)』と言います。
保安装置がまだ未整備の頃は、信号冒進による列車や車輛の追突事故や正面衝突事故、脱線、転覆など重大な事故がしばしば発生していました。このため、多くの尊い人命が傷つき、失われてきました。
この種の事故は列車密度が高まり、運転速度が高くなって目立つようになってきました。もはや人の手だけでは事故は防ぐ事が難しくなってきたので、未然に信号冒進を防ぐために考え出されたのが『停止信号を超えて進行しようとした場合に警報を与え、時にはブレーキを自動的に動作させる装置』、つまりATS(Automatic Train Stop:自動列車停止装置)が開発される事になりました。この装置はあくまでも安全走行を確保するのは運転士の役目であり、ヒューマンエラーに対するバックアップシステムという考え方です。しかし、人は失敗を繰り返してしまうのです。ATSが一つ進化すると、その欠点や盲点を突いた事故が発生し、多くの人々を傷つけ、死に至らしめてきました。そして、その事故を教訓に新しいATSの開発へ。
ATS装置そのものの背景には、多くの人命と教訓によって築き上げられたと言っても過言ではないでしょう。決して忘れてはならない過去の歴史を基に、今日も安全を維持、向上させるためにATSは進化を続けています。
※ATS装置は様々な構造があり、各鉄道会社によって異なっています。ここでは、基本的なATS装置を中心に説明を行っていますので、予めご了承下さい。

ATSを構成するもの

現在のATSは様々な事故を教訓に進化し、複雑な構成となっていますが、基本的な要素は次の通りになります。この言葉がこのあと、しばしば出てきますので覚えて下さいね。

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車上子(しゃじょうし)

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車輛側に設置されるもので、地上子から停止信号に対しての信号を受信する受信機。ATSの種類によっては車輛側の速度などの情報を送る機能を追加しているものもあります。
車内表示灯(表示灯)

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運転席に設置されているもので、車上子が停止信号の信号を受信すると点灯して知らせてくれるもの。一般的にはけたたましいベルの音色が響いて、運転士に知らせます。表示灯に「ATS」と書かれたものがあります。
地上子(ちじょうし)

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信号機の停止信号を知らせるために線路に設置されているもの。停止現示の時に決められた電波(周波数)を発信する事で停止や進行である事を車輛(運転士)に伝えます。

ATSの歴史と発展

ATSは先ほども述べました通り、数多くの事故によって改良が加えられ、今も進化を続けています。ヒューマンエラーをいかに防ぐか、ここに鍵があるのですが未だに完成形はありません。ATSの歴史と発展を見ながら、学んでみましょう。
ATSの誕生
ATSは大正10年に東海道本線汐留~品川駅間で磁気誘導式ATSを試験したのが始まり。横浜線や福知山線でも別方式のATSが試験されました。
昭和2年、東京地下鉄道(現:東京メトロ銀座線)において、日本初となるATSが実用化されました。「打子式」と呼ばれる方式で、線路上に信号機と連動した可動打子(トリップアーム)を設置し、車輛にあるブレーキコックを操作する方法です。当時は自動空気ブレーキであったため、コックを操作されると圧縮空気が抜け、ブレーキが動作する仕組みとなっています。簡単な仕組みでありながら、保安度は高く銀座線や丸ノ内線では1990年代、名古屋市営地下鉄では2000年代に入っても使われ続けました。現在はATCに置き換えられて、使用している線区はありません。
打子式ATSとは。

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後に登場するATS各形式とは異なり、地上子は無く「電空式列車停止機」というものがあります。信号機が停止現示の時に動作し、線路横にある打子(トリップアーム)を起します。進行を指示する現示が出ると打子は倒れる仕組みとなっています。列車が停止現示にもかかわらず進行をすると、車輛側に設置された突当り弁(トリップコック)が打子に当たり、突当り弁を動かします。動くとブレーキ管内にある圧縮空気が放出され、ブレーキが動作する仕組みとなっています。シンプルながら確実に信号冒進を防ぐ画期的なシステムと言えます。
車警の誕生
運転士に停止信号である事を伝えるATSは、国鉄で様々な試験を行い誕生します。
そして誕生したのが、『ATS-S形』です。

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図のように停止信号である事を伝える地上子を設置します。この地上子を「ロング地上子(単にロングとも言う。)」と言い、停止信号の際に決められた周波数を出します。これを車輛側が通過した際に検知をすると、運転台に警告音が鳴り響きます。この際に、運転士が決められたブレーキを扱い、確認をする事で警告音が停止します。
一方、大都市部の過密な線区、いわゆる国電線区ではもう少し保安度の高いATSが導入されました。『ATS-B形』というATSが山手線、京浜東北線に登場します。このB形は軌道電流式とも言い、周波数を利用した電流を線路に流し、制御点に列車が到達すると電流を停電させ、停止信号が近づいた事を知らせる仕組みで、ロング地上子が制御点、つまり電流が停電しているかを検知するとなって点で、他の仕組みはS形と同じです。
相次ぐ鉄道事故
このATS-S形及びB形は「車警(しゃけい):車内警報装置」と呼ばれていました。ATSが設置されていない線区で、悲惨な事故が発生します。昭和31年に参宮線(現在は紀勢本線)六軒駅で場内信号機の注意現示を見落とし(出発信号機が停止現示)、安全側線に突っ込み脱線転覆。反対線路を支障してしまい、そこへいとまなく、反対列車が突っ込み死者42名、負傷者94名を出す列車衝突事故、六軒事故が発生。この事故をきっかけに国鉄全線に車内警報装置を設置する事が決まりました。
この頃のATS-S形及びB形は警報音は発するものの、運転士が勘違いや意識喪失などの場合、また故意に無視をする事が出来る。つまり、停止させる機能はありませんでした。この当時のATSの弱点をついた事故が昭和37年に発生した「三河島事故」です。貨物列車運転士が場内信号機の注意現示を確認したものの、出発信号機の現示を誤認し脱線して隣の下り本線を支障。そこに下り普通列車が衝突。この列車は上り本線を支障してしまいました。この時点ではさほど大事には至りませんでしたが、事故の状況把握が遅れ、連絡が遅れたため一つ手前の駅で上り列車を抑止出来ませんでした。その事を知らない現場では、乗客が避難を開始、線路を歩き始めました。そこに何も知らない上り列車が線路内を歩く人影を発見し、非常ブレーキを扱うも間に合わず。多数の乗客を撥ねながら、脱線した下り列車に衝突。双方の先頭車は木端微塵に粉砕し、上り列車の一部は築堤より転落しました。未曽有の列車多重衝突事故となり、死者160名、負傷者296名の大惨事となりました。
この事故を受けて、国鉄では設置中のATS(車内警報装置)に、一定時間経過後(5秒)運転士が確認扱いを行わない場合に、非常ブレーキを動作させる機能を追加しました。これが現在のATS=自動列車停止装置と呼ばれるようになります。
一方、私鉄各社でも列車の追突事故が多発し、運輸省では昭和42年に大手私鉄などにATSを設置するように指示を出します。

だんだん、現在の形に。
三河島事故を受けて、ようやくATSが現在の機能となる自動列車停止装置になりました。ATSが動作し確認をしなければ非常ブレーキを動作させる。というものですが、確認扱いをしてしまえばそのまま赤信号を進む事が出来る。という致命的な欠点が残されたままでした。
昭和42年、中央本線や山手線など多数の線路がある新宿駅構内で、石灰石を満載した貨物列車が場内信号機を冒進。原因は運転士が確認扱いをしたにもかかわらず、漫然と運転を継続し、停止信号を認め非常ブレーキを扱うも間に合わずに冒進、前方を通過中であったタンク車に衝突。タンク車は脱線し、衝突時に発生した火花でタンク車は爆発炎上。周辺は瞬く間に火の海に。タンク車の積荷は米軍航空機用ジェット燃料であったため、燃え残ったタンク車からの燃料抜き取り作業などで在日米軍の手を借りなければならず、復旧に丸1日以上かかり、この間中央線は不通になり約200万人に影響が出ました。この事故を受けて対策として、場内、出発信号機の近くに直下地上子を設置しました。この直下地上子は再度警報音を鳴動させるだけで、非常ブレーキを動作させる機能はありません
翌昭和43年、中央本線御茶ノ水駅構内で停車中の電車に、後続電車が追突する事故が発生、事故は御茶ノ水駅を発車した電車の乗客がドアに手を挟まれているのを認め、非常停止手配が採られ、いくらか進んだ所で停車しました。後続電車の運転士が見込み運転を行い、ブレーキ操作が遅れて追突。双方5両ずつが脱線、210名の負傷者を出しました。この事故を機にさらに警報維持装置を追加する事になりました。これは、確認扱いを2回行うもので、ロング地上子により警報が鳴動。ここで1回確認扱いを行い、その後チャイム音(キンコンキンコン・・・)が鳴り続けるというものです。

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※P:Tuboフォトオフィス様撮影

御茶ノ水駅追突事故以降の国鉄(JR)型の車輛でATSを装備する車輛は写真のようにATS確認ボタンと警報持続ボタンが設置されています。ATS確認ボタンは従来からあるもので、ATSが動作するとけたたましいベルを鳴動し、運転士に次の信号機が停止現示である事を伝えます。このボタンを押す事で「確認をした」事になります。その後、チャイム音に変化します。停止後、警報持続ボタンを押す事でチャイムが停止します。一見、しっかりした感じもしますが、従来のものに運転士に注意喚起を促す機能を追加しただけで、運転士の注意力や判断力に依存しなければならない問題が残っていました。当時、諸般の事情によりこれ以上の設備は追加する事は出来なかったそうです。
この他に、ATSの電源を入れ忘れたり、切って運転するという問題があり、これでは保安装置そのものが活かせないほか、重大な事故を起こしかねません。そこで、切って運転が出来ないように「ATS未投入防止スイッチ」というものがあります。低速で移動をする入換運転があるため、一定のノッチ段にノッチを進めるとけたたましい警報音で知らせるというものが装備されています。
ATS形を切って運転する作業も当時あり、これが原因の一つとなる事故もありました。平成9年中央本線大月駅構内で発生した列車衝突事故です。大月駅を通過中の特急「スーパーあずさ」号に入換を始めた回送列車が特急列車の側面に衝突し、9号車から5号車の5両が脱線、うち1両(8号車)が横転しました。入換をしていた車輛も2両が脱線。78名が重軽傷を負いました。原因は回送列車の運転士が何らかの理由でATSを切って入換をするものと考え(ATSそのものは故障していない。)、下り本線出発信号機を自列車の入換を開始しても良いと誤認してしまった事とされています。この事故を受けてJR東日本ではATSを切って入換をする作業を全廃にしたほか、車輛の改修を行いました。

弱点をつかれる。
その後、ATS-S形(B形)も改良を経て形が落ち着いたかに見えました。国鉄からJRに移行し平成元年、飯田線北殿駅で停車中の下り列車に上り列車が正面衝突、双方の乗客146名が負傷する事故が発生しました。上り列車の運転士がATSのロング地上子の警報を受け、確認扱いを行いましたが、前方に見える出発信号機が進行現示であった事から、場内信号機も進行現示に変わったと誤認し、減速する事無く運転を継続。場内信号機のATS直下地上子の警報は鳴動するも停止する事が出来ず、場内信号機を冒進してしまいました。飯田線は単線区間であり、最初に到着した下り列車が万が一滑走した時の安全対策として、そのまま本線に分岐器を開通させていました。この安全対策が上り列車の場内信号機では裏目に出てしまい、そのまま下り列車の方向へ進入して正面衝突をしてしまいました。
この事故は、ATSの最終的に停車する扱いを全面的に運転士に依存するシステムの弱点をつかれるものでした。この事故により、運転士の注意力だけでは、列車を停止する事が出来ない。という事を証明する事故でもありました。
後ほど説明に出てきますが、昭和63年に発生した東中野駅列車衝突事故、そして北殿駅列車正面衝突事故を受けて、JR各社ではATS-S形を緊急に改良する事を決めました。この改良は東中野事故を起こしたJR東日本及び、北殿駅事故を起こしたJR東海が行いました。
従来のATSでは警報機能のみでしたが、これに即時停止機能を盛り込む事にしました。この即時停止機能は確認ボタンを扱い、警報を解除したとしても、絶対信号機である場内信号機、出発信号機直下に設置した地上子を通過、つまり信号冒進をすると直ちに非常ブレーキを動作させるもので、分かりやすい言い方では停車場の駅長の意思をより明確に表したものです。(今までは来ちゃダメ、出ちゃダメだよ。がこれからは来るな!出るな!といった感じでしょうか。)一方、JR東海を含む西のJR各社、JR貨物では時素式速度照査機能を採用しました。これは、二対となる地上子を設置し、通過する速度を照査し、速度超過時に非常ブレーキを動作させるものです。

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ATS直下地上子(左)と時素式速度照査機能(右)の例。地上子は赤色や緑色が多い。

この新しいATS-S形はJR各社で呼び名が異なり、JR北海道はATS-SN、JR東日本はATS-S、JR東海はATS-S、JR西日本はATS-S、JR四国はATS-SS又は、JR九州はATS-SK、JR貨物はATS-SFとしました。私鉄各社でもATSは導入されており、JR各社と関係のある会社は名称が異なるものの、同機能やJRの名称を採用している会社もあります。

その他のATS
ATSは信号機に対する停止現示を知らせる役目でしたが、曲線区間や分岐器、線路終端など速度超過による脱線や転覆事故といった重大事故を防ぐ目的で設置される箇所もあります。仕組みは時素式速度照査が主で、対となる地上子の上を通過する速度を車上タイマーと照らし合わせて、超過している場合は非常ブレーキを動作させるものとなっています。

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左より、40‰に設けられたATS。急勾配での速度超過を防ぐ。線路終端に向かって進むため設置されている速度照査用ATS。下にある数字は25km/h以上で非常ブレーキが動作する事を示しています。名古屋鉄道の線路終端に向かう線路に設置されているATS。ずらりと並んだ地上子が特徴です。

ATS-P形

鉄道事故には様々なものがあり、その一つである速度超過に起因する事故がATS-P形の登場の背景にあります。
関西本線平野駅構内列車脱線転覆事故
 昭和48年に発生した事故。運転士は何らかの理由で意識朦朧(もうろう)となり、第1閉そく信号機、平野駅場内信号機注意現示を確認せず進行。速度70km/h以上で制限速度35km/hの分岐器に近づき、速度超過に気付いた運転士が直ちに非常ブレーキを扱うも脱線転覆、196m進んで停車しました。この事故により3名が死亡、150名以上が重軽傷を負いました。
西明石駅構内列車脱線事故
 昭和59年に発生した事故。山陽本線西明石駅を通過中の寝台特急「富士」の先頭の客車が脱線しホームに激突。側面を大きくえぐり取られて大破。最後尾に連結されていた電源車を除いて全ての客車が脱線するという大きな事故です。この日、西明石駅構内で保守作業が行われる計画があり、「富士」号の走行する線路が変更され、この事柄は機関士、機関助士にも伝達されていた。しかし、機関士はこの事柄を忘れており、機関助士は事柄を覚えていましたが、機関士に注意をせず、事故が起こるのを見ていました。(当時、機関士は絶対的存在であり、機関助士が口を出そうものなら、恫喝などの行為を受ける事があり、何も出来ない関係にあったそうです。)このため、分岐器の制限60km/hの所へ100km/hと速度を大きく上回って進入し、客車が大きく傾斜し脱線、ホームに衝突する事になってしまいました。幸いにも衝突した客車の通路側を被災したため、就寝中の乗客への直撃は免れ、負傷者のみで済みました。事故後、機関士が飲酒をして相当酔っていた事が判明。さらに、後続列車となる「さくら」号の機関士も「富士」号の機関士の誘いを断れず飲酒をして乗務をしていた事が判明。国鉄内部の荒廃、風通しの悪い人間関係を世間にさらす事になり、大きな批判を受ける事になりました。
この2つの事故で共通する事は『速度超過』という事故原因です。この種の事故も古くより多くあり、運転士の勘違いや心身の異常などにより発生する場合に列車の速度を抑制する事はATSで出来ないかと考えられました。①の平野駅脱線転覆事故を受けて、関西本線で試験が始まり、昭和59年の西明石駅列車脱線事故でATS-P形の原型となるH-ATS形を開発する事になりました。
昭和61年に山陽本線西明石駅などにH-ATS形が設置されました。本格的な導入を行った第1号路線は昭和61年に開業したJR東日本の京葉線です。昭和63年にATS-P形を運用し始めました。この際、名称をH-ATSからATS-Pと変更しました。

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JR東日本ではこのATS-P形を列車密度の高い路線に順次拡大をしていく計画でしたが、京葉線がATS-P形を導入した同年に中央本線東中野駅で列車追突事故が発生(東中野駅に停車中の列車に後続列車が追突。後続電車の運転士を含めた2名が死亡、116名が重軽傷を負いました。慢性化する列車遅延を回復するため、警報鳴動後に一旦停止をしない「追い上げ運転」が行った事が原因とされています。なお、事故現場の東中野駅では同地点で過去に2度同じ事故を起こしており、今回は3度目に加え、JR発足後の初の重大鉄道事故となりました。)し、同社では前倒しでATS-P形を導入、整備しました。

ATS-P形とは

ATS-S形(B形)は一つの信号機に対し、一つの地上子を用いて制御を行います。この様な制御を「点制御」と言います。地上子を2つ以上配する事で、列車や車輛の速度制御を連続して行う事が出来ます。この様な制御を「連続制御」と言います。しかし、確認を行うとそれ以降の制御が働かないという欠点がありました。このため、停止信号や速度超過を警告しても、運転士が何らかの理由で従わず、事故を起こしてしまいました。
そこで、デジタル技術を用いたのがこのATS-P形です。ATS-S形と同じ地上子、車上子、表示灯の構成ですが、地上装置、地上子からはその線区の最高速度や信号機の現示状態、速度制限、勾配などを、車輛側では動き出し、速度変化照らし合わせながら、地上子よりデジタル転送される情報を基に照らし合わせ、車輛のブレーキ性能と走行距離から上限となる速度を算出(速度照査)し、減速や停止を行うというものです。

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左からATS-P地上子、車上子(奥の白いもの。マワ車所蔵)、表示灯

ATS-P形の仕組み

文字では少しわかりづらいので、イラストで見てみましょう。ここでは停止現示に対するATS-P形の動作を例にしています。
停止現示に向かう。

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図のように列車が速度50km/hで停止現示の信号機に向かって進んでいます。この時、ATS-P型はこの列車が停止現示の信号機に確実に停止できるにはどうするか、車輛側から送られてくる車輛性能の情報をもとに計算を行います。イラストはイメージですが、各地上子の通過速度を計算しています。
結果。

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列車の速度から停止現示の信号機まで停止させる照査結果である数値、つまりその速度以下であれば大丈夫です。これをグラフにすると赤い線の感じになりますね。この線を照査パターンと言います。(単にパターンとも言う)このパターンがATS-P形の「P」なのです。
進んでくると。

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列車が速度50km/hでそのまま停止現示の信号機に進むと、パターン(赤い線)に当りますね。運転士は停止現示である事を認めた場合は、直ちにブレーキを扱います。(黒色の破線)この時、パターンに触れなければ、何ら問題はありません。S形やB形のようにロング地上子がないので、確認扱いはありません。どこでパターンに触れるかはその時の速度などによるので、運転士はドキドキものかもしれません。

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上の表示灯では、左から2番目になりますが、パターンに近づく(許容速度を超過する恐れがある場合)と運転士にブレーキを扱う(減速させる)ように促すため、「パターン接近」という表示灯がベルの鳴動と共に点灯します。
絶対に止める。

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更に列車が進み、パターンの設定した許容速度を超過する=停止現示の信号機に停止出来ない。とATS-Pが判断した場合は運転室内ではベルの鳴動と共に「ブレーキ動作」の表示灯が点灯し、直通ブレーキ系統の車輛では常用最大ブレーキを動作させ、列車を停止させます。(ただし、場内及び出発信号機(一部閉そく信号機)の直下では非常ブレーキを動作させます。)自動ブレーキ系統の車輛では、直ちに非常ブレーキが動作します。これは、自動ブレーキの構造上、数度減圧を繰り返した場合(ブレーキをかけたり、緩めたり)に込め不足が発生してしまうので、一旦止めて込めた後に運転を再開させるためです。
直通ブレーキの車輛では、ATS-Pがブレーキ動作をかけ、パターン以下に速度が低下するとブレーキを緩めるほか、停止現示の信号機がパターン発生中に、進行を指示する信号(警戒、注意、減速、進行)に変化した場合は、更新用の地上子があり、更新後に進む事が出来ます。
このパターンは信号機の他にも、その路線の運転最高速度、曲線や分岐器などの制限箇所にも設置されており、列車は動き出してから止まるまで常にATS-Pに監視され、守られています。

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※写真は出発信号機に近い場所にあるATS-P形の様子。パターンが厳しいため左側に「速照15」とあり、ATS-P形のパターンに当る速度は15km/hなので注意して。と運転士に注意を促す標識があります。実際はそれ以前の速度などでこれによらない事もあるとか。

ATS-P形は停止現示の信号機に対する冒進や制限速度箇所の速度超過がなく(ただし、気象条件などによっては起こりうる場合もあります。)、各車輌のブレーキ性能に対応した最適な照査パターンをつくるため、安全で高密度運転が可能であり、輸送力増強を図れることから首都圏を中心に導入されています。

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首都圏や大阪圏などの重通勤線区にATS-P形が採用されており、高密度運転を実現しています。写真は採用さている線区の一つ中央快速線です。

この他のATS-P形

ATS-PN形
 JR東日本の列車密度の低い線区に導入されているもので、性能はATS-P形と同じとなっていますが、一部の機能を省略したものとなっています。

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ATS-PN形を採用している東金線。この他に武蔵野線や五日市線など首都圏の郊外路線に採用されています。
ATS-PT形
 別名JR東海ATS-P形とも言われるもので、ATS-STの交換のため、平成22年から導入が始まり、平成24年に同社管内の在来線全てが更新されました。基本はJR他社のATS-P形と同じですが、ATS形の本来の目的である安全確保を考え、運転支援機能を省略し、あわせてコスト低減を図っています。
他社のATS-P形は自動空気ブレーキ方式の車輛を除いて、車上装置に常用ブレーキと非常ブレーキのパターンをつくり、それぞれの照査パターンの許容速度を超過した場合にそれぞれのブレーキが動作しますが、ATS-PT形は前者の常用ブレーキのパターンがないのが特徴です。つまり、非常ブレーキのみパターンがつくられます。

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ATS-PT形を装備するJR東海の車輛。(313系)

ATS-PF形

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貨物列車は自動空気ブレーキ方式が多く採用されており、停止する際はブレーキ力を増して行うのが一般的で、旅客列車とは減速の特性が異なっています。(強いブレーキ力を与えてから、徐々に弱くする。)また、旅客列車のように車輛かつ編成が決まっている訳ではないため、旅客列車のようにATS-P形のパターンを一定(車種による減速度の設定など)に出来ません。このため、開発されたのが車輛(機関車)に搭載した専用のATS-P、つまりSF形です。
貨物列車には列車種別に応じた運転最高速度45、55、65、75、85、95、100、110km/h、入換運転速度25km/hがあり、これらのうち1つを選択し、これを上限とした照査速度のパターンを作成します。運転台にはバーグラフがあり、発生したパターンが表示されています。パターンに接近すると注意を促し、超えると判断した場合は非常ブレーキが動作します。

ATS-Ps形

これは、編集地上子組合せパターン型とも言われるもので、既存のATS-SN形やATS-P形のST、SW、SF形に変周周波数を加え、地上子設置位置の規則を車上に記憶させ、速度照査パターンをつくる機能を持たせ、ATS-P形に近い機能を持たせたものです。

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イメージ図にある赤い地上子はATS-S形のロング地上子(左)、と信号機の直下地上子(右)です。パターンを作成する地上子は青色の3個で、信号機が停止現示である場合、その信号機から655m手前で第1パターン(65km/h以下(機関車は55km/h以下))がつくられ、続いて390m手前で2個1組の第2パターンを発生させる地上子で15km/hまでのパターンが車上側につくられます。パターン速度を超過した場合、非常ブレーキが動作し停止させます。また、場内信号機から出発信号機までの距離が短い場合は、場内信号機の外方に出発信号機用のパターンを発生させる地上子があります。
最後に15km/hになり、ここで運転士が何らかの理由で停止させない(出来ない)場合はATS-S形の信号機の直下地上子で非常ブレーキを動作させます。
信号機のほか、曲線や分岐器、勾配などにも使用されています。

搭載されているATS装置

 JRの代表的なATS装置をご紹介してきましたが、その車輛にはどんなATS装置が使用されているのか判らないと困ります。線区ごとや会社によってATS装置が異なるためで、この他にATC装置の有り無しによってはその車輛が走れません。そこで、ATS装置、ATC装置を搭載する車輛(先頭車)に記号で、搭載している装置を表しています。車輛の中には他社(JR東日本からJR東海へ)に相互に乗り入れる車輛もあります。この場合、同じATS-S形やATS-P形であれば互換性を持たせています。(機能の一部が即時停止機能のみとなる。)一例を見てみましょう。
JR北海道・・・写真はATS-S形の改良形であるATS-SN形を搭載しています。SNを一つの標記とせず、一文字ずつを枠で囲んでいます。

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JR東日本・・・写真左は、ATS-P形、ATS-SN形、ATC装置を搭載している事を意味しています。写真右はATS-P形とATS-Ps形を搭載している事を意味しています。

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JR東海・・・ATS-S形の改良形で、JR東海の呼び名であるATS-ST形とATS-P形のJR東海版であるATS-PT形を搭載している例です。

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JR西日本・・・PはATS-P形、SはATS-Sの改良形でJR西日本はそのままとなっています。

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JR四国・・・ATS-S形の改良形をJR四国ではATS-SS形と呼んでいます。Sとだけ書かれた車輛もあります。

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JR九州・・・写真はATS-DK形(JR東日本のATS-PS形のJR九州版。)及びATS-SK形を搭載している車輛です。

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JR貨物・・・ATS-S形の改良形であるATS-SF形と同社の機関車のみが搭載するATS-PF形を搭載している。という例です。

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おまけ

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先頭車同士が中間に組まれている編成を見かけますよね。写真左では星印の下に搭載しているATS形が表記されていますが、右の写真にはありません。これはなんでしょう。
ATS形装置を搭載していない車輛は、先頭に立って運転が出来ない決まりとなっています。この様に保安装置を搭載せず、中間に組み込まれている先頭車を『中間車代用車』と言います。中間車が不足している場合などの理由により、見ることが出来ます。

おまけその2

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皆さんは写真のようなものを鉄道博物館で見たことがあるかな?写真のような本格的なものから、モニターと本物の運転台を組み合わせた「シュミレーター」というコーナーがあり、運転士さんの疑似体験が出来るものです。ご自宅でも似たようなゲームがありますね。一度やってみると楽しくてはまってしまったという方も多いのでは。
写真のような本物の鉄道車輛(運転台)を使って、プロジェクターに実際の路線画像や仮想路線を写して運転士さんや車掌さんも勉強をしています。シュミレーターを用いて、実際に発生しては困る「事故」や「故障」などの想定した訓練を行い、対応などの手順を学んでいます。例えばATSの故障した時の訓練をしているそうです。
私たちの前ではちょっぴり高価な遊具ですが、鉄道の現場では安全をつくる大切な機械です。