カルガモさんの言っていた事はきっと、動力源の違いによるものなのでしょう。また、車内はその車輛の用途の違いのようですね。
 おっと、これでは鉄道に詳しくない人には何のことやらさっぱりですね。ゴメンナサイ。
 鉄道車輛は様々なものがあります。大きく別けると、次のように分けられます。
動力の有無」による違い。
簡単に考えると、車輛に動く為の機能を備えた車輛とそれを持たない車輛があります。鉄道では動力を持った車輛を「動力車」と言い、大まかな記号では「M」と表記されます。一方、持たない車輛を「付随車(ふずいしゃ)」と言います。こちらは「T」と表記されます。
この動力車の配置による呼び名の違いもあります。
●動力集中方式

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図のように、動力車(M)が1両のみの編成を『動力集中方式』と言います。主に客車や貨車を牽引又は推進(押す事)する事が一般的です。

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写真のように貨物列車や客車列車がこの方式です。機関車が引く列車という事です。
利点
・車輛の増備コストが安価。
・客車には動力が無いため、静粛性(せいしゅくせい)に優れている。
欠点
・動力車に故障が発生すると大変なことになる。
・起動時の加速が悪い。つまり列車として走らせる場合、運転時間が長くなる。
・動力車は主に重量のある機関車であるため、線路を強く設計しなければならない。
・折返し時に機関車の付替えが必要なため、時間がかかるほか、付け替えるための線路設備などが必要。(広大な土地が必要。)
と、利点と欠点の主なものを並べてみました。この方式は世界各地でのスタンダードなものとして使われています。日本は鉄道が誕生した頃はこの方式でしたが、広い土地が少なく、地盤が軟弱である事から現在では貨物列車が主なものとして残っている程度になっています。
●動力分散方式

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図のように動力を複数の車輛に分散配置した編成を『動力分散方式』と言います。電車や気動車がこの方式を採用しています。

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気動車(左)と電車(右)は日本を代表する鉄道車輛です。なぜ、主力なのでしょう。

利点
・動力車の1両が故障しても、他の動力車でまかなえる冗長性(じょうちょうせい)がある。(ただし、編成中に1両しか動力車が無い編成は除く。)
・動力車各々の出力は小さいですが、総出力では高出力となり、高速運転もし易い。
・分割や併合が容易に行えるため、複数の列車を1つの列車として運転する事が可能。
・折返しの際、機関車のような付替え作業が無く、設備も必要最小限で済むほか、時間もかからない。
欠点
・車輛増備のコストが高価。
・客車では客室の騒音問題に対応する必要がある。

私たちの住む日本は土地が狭く、山岳地帯が多くあります。また、地盤が弱いという特徴もあって、動力集中方式の機関車よりも動力分散方式である電車や気動車が発展しました。また、狭い土地であるが故に駅間が短く、勾配区間も多い事が発展の後押しとなっています。この他に、動力分散方式は加減速といった機動力も優れているため、高過密度運転にも向いています。日本以外の世界で動力分散方式を主流としているのは「イタリア」があり、『電車王国』とも呼ばれています。その他の国では都市部などで見られる地下鉄などに少数採用されています。
積荷」による違い。
鉄道車輛には人々を運ぶ目的の「旅客車」と貨物を運ぶ目的の「貨物車」、そして動力機関のみを持つ「機関車」の3つがあります。
これらに加えて、用途や設備などによって細かく区分けされていきます。

さて、このページでは鉄道車輛の一つである『電気車』を皆さんと一緒に学んでみましょう。

電気車とは何だろう?
 「電気車」とは、動力の発生源に電動機(モーター)を使用した鉄道車輛を言います。その電動機を用いた鉄道車輛は『電車』と『電気機関車』の2つがあります。
 この2つの違いは、電車は旅客や貨物を運ぶ目的で、電気機関車は走行に必要な機器のみを搭載しているという事です。
電気車の動く仕組み
 電車、電気機関車は見た目や構造は全く異なっていますが、電気で動く鉄道車輛です。多少の機器の違いはありますが、基本は同じです。下の図は基本的なもので、これに沿って説明をしていきましょう。

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電気車は図のように発電所で作られた電気は変電所を通り、「架線」に送られています。この架線に送られた電気を取り込みます。
①電気を取り込む装置
 電気車を動かすために、架線に送られてきた電気を取り込む装置が必要となります。方法は2つあり、車体に設けた『集電装置』によって電気を得る方法と、『蓄電池(バッテリー)』を積載して電気を得る方法があります。一般的には前者の集電装置による方法となっています。
 この集電装置は一般的には『パンタグラフ』と呼ばれており、後ほど説明しますが形が様々あります。また、架線の電気をパンタグラフによって電気を得る方法を『架空電車線方式』とも言います。
★パンタグラフの構造や形
 電気車で一般的に利用されている「パンタグラフ」。まずはこの構造を見てみましょう。

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パンタグラフを横から見てみると、細いパイプのようなもので構成されています。この部分を『枠(わく)』と言います。この枠をよく見てみると、真ん中位の所に可動部があります。この部分から上を「上枠」、下を「下枠」と言います。下枠の根本、つまり車体と接する部分には電気が流れないようにする『碍子(がいし)』と呼ばれる絶縁体があります。

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今度は上から見てみましょう。枠の上部に何か板が付いています。これは『スライダー(擦り板)』と呼ばれる部品で、架線と接して、電気を得る部分です。スライダーは1つまたは2つあります。その両側に垂れた部品が付いていますが、これを『ホーン』と言います。ホーンとは角(つの)の意味。架線はスライダーに接しており、1点のみで接し続けるとその部分のみすり減り、やがて溝のような形になってしまいます。こうなってしまうと、分岐する箇所や曲線などにおいて、スライダーに架線がはまり込み、架線を引っ張って切断してしまったり、パンタグラフそのものが壊れてしまいます。そこで、架線をジグザグに張って、均一にすり減るようにしています。このジグザグにより、架線とスライダーが離れてしまう事があり、その際にスライダーにスムーズに戻れるようにするのがホーンの役割です。スライダーとホーンは兄弟のようなもので、合わせて『集電舟』とも言われます。
枠の台座にはパンタグラフを下げる「下げシリンダー」や下がったパンタグラフを固定する「鍵」があります。上昇させる方法は空気や手動(車体妻面や側面にある紐を引くもの)、電磁弁による方法があります。

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パンタグラフの近くや写真のように横に主に円筒形状の煙突のようなものがあるのを知っているかな?これは『避雷器(ひらいき)』と言って、落雷の際に雷のもつ強い電気がパンタグラフに落ちてしまうと、その先にある機械類が壊れてしまうため、避雷器に落とすようにする事を目的としています。

★集電装置のいろいろ

 集電装置は電気を集め、電気車を動かすために必要な装置ですが、動きながら集電をするため、架線との追従性が求められるほか、その構造は軽量かつ丈夫でなければなりません。主なものをご紹介しましょう。
◇トロリーポール(trolly pole)

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 ポールや電棍(でんこん)と呼ばれるものです。本体は鉄やステンレスなどの軽金属で出来ており、先端に「トロリーホイール」という滑車状の車輪などが取り付けられています。トロリーホイールを架線にはめ込むようにして接触させる構造です。進行方向に対して、トロリーホイールが後方になる位置で使用するため、屋根には2つ設置されています。
 構造上追従性が悪く、高速化や大出力化には不向きなため、路面電車を中心に使用されました。
◇ビューゲル(Burel)

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 トロリーポールはアメリカ生まれですが、このビューゲルはドイツで生まれ、欧州各地で使われたものです。ビューゲルとは「枠」の意味で、スライダーシューを架線に圧接して集電をする方式です。日本ではその形状から弓形集電装置や布団たたきと呼ばれ、アメリカではボウコレクター(Bow collecter)と呼ばれています。
 鉄やステンレスの枠状で、関節は無く、トロリーポールと同じく、架線に接する角度を変えて架線に追従する構造です。
◇パンタグラフ(Pantograph)
 誰が開発したのか未だわかっていないのですが、とても良い構造で世界各地で使われ続けています。語源は製図などでコピーをするために用いられるリンク機構をもつ菱形の道具に動作が似ている事から名付けられました。
 コイルばね、空気圧などにより架線に集電舟を押し付け、本体に関節又は伸縮構造を設けて、架線高さの変化に追従させる方式です。架空電車線方式では最もポピュラーなもので、他の構造をもつものを含め、関節構造を備えた集電装置全般の名称ともなっています。
◎菱形

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 古典的な形態でありながら、現在最も多く見る事の出来る形態のものです。初期の頃は写真左の「ラーメン構造」(ラーメンとはドイツ語で「額縁」の意味。)でしたが、後に写真右の「トランス構造」が出てきて、主に使われています。
 低速~中速域での追従性能が良いのですが、高速域になると空気抵抗が大きいなどの理由によりシングルアーム型が誕生しています。
◎下枠交差形

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 菱形の下枠を交差させる事で作用高さを損なうことなく、上枠を小型化したものです。昭和39年に開業した東海道新幹線で、高速化に対応するパンタグラフを開発した際に登場したもので、小型化による軽量化が図られ、架線追従性も向上しました。(写真左)
 菱形よりもコンパクトな構造から、私鉄各社では冷房装置などの屋根上機器が多く載せられる理由により採用されている例が多くあります。
◇Z型・シングルアーム

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 パンタグラフと同じ原理を持つもので、呼び名や外観は大きく異なります。国内ではシングルアームが登場する以前はZ型と呼んでいました。
 路面電車に使用されていたビューゲルの改良型として関節構造を設けたもので、架線の追従性を向上させました。
 一方で、菱形や下枠交差形では難しかった高速域での追従性向上のほか、風切り音による騒音問題などに対する開発が進められ、パイプ構造の見た目は頼りなさそうなパンタグラフが開発されました。横から見るとくの字構造で、集電舟と全体の変形を防ぐリンク構造となっています。関節を減らす事で枠の軽量化が図られ、軽量化と高剛性化を実現し、高速域での架線追従性を向上させています。
 高速走行では新幹線が主なものとなっていますが、最近では多くの車輛がシングルアームを使用しています。何故でしょうか?多くの車輛は高速で走行をすることはありません。この構造は雪に対して有効である事から採用されています。
 菱形や下枠交差形パンタグラフでは雪が付着する面積が大きく、雪が着き、段々重みが増してくるとパンタグラフ自体が下がってしまいます。これを「離線」と言いますが、離線してしまうと電気車は動くことが出来なくなってしまいます。
 そこで、このシングルアームが注目されました。着雪面積が少なく、離線し難い事から採用例が増えました。近年、登場する多くの電気車でこのシングルアームが採用されています。

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上の写真は近年の新幹線に見られるシングルアームパンタグラフで、左がJR東海300系、右がJR東日本E5系のものです。新幹線の高速化に伴い、走行時の風切り音を軽減する工夫が行われているのが特徴です。

◇パンタグラフにまつわる用語

◎◆マークと低屋根車輛

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 皆さんは、車輛の側面にある形式記号の左に「◆」のマークが付いている車輛を見た事があるでしょうか?この「◆」はパンタグラフを持つ車輛にあり、ある条件を意味しています。
 架空電車線方式を採用している電化区間では、集電装置の高さと架線の高さが定められています。
 トンネル区間(地下鉄線)では高さが異なる場合があり、低い側にあわせて車輛の設計が行われます。もし、高さが定められた数値以下になると、架線に流れる高圧電気がショート(短絡)してしまう事やパンタグラフが降下してしまうなど問題があります。
 非電化路線の区間が電化を行う際に、トンネルが低い場合があり、その際には路盤を下げる(線路の位置をさげる)工事が行われる事があります。
 しかし、特殊な例もあります。明治時代につくられたトンネルの一部には工期短縮、工事費用低減を目的に建築限界の最小値で設計されたものがあり、このトンネルに対して大規模な改修工事を行わず、車輛側で改造やその線区に合わせた車輛を投入する方法が採られました。そして、そのトンネルを『狭小トンネル』と言います。
 通常、直流電化区間では軌道面より4000㎜と定められていますが、例えば中央本線高尾~中津川駅間の山岳区間でのトンネルでは3980㎜となっています。

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狭小トンネルの場合、図のように高さが異なるため、機器の移設などの必要があります。パンタグラフ部分ではその部分の屋根を切り欠いて低くしました。

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写真は模型です。

このような車輛を『低屋根車輛』と言い、国鉄では800番代に区分されてわかるようにしました。注意しなければならない点として、重心を下げる目的で全高を下げた車輛やJRになり登場したその線区向けにの車輛は低屋根車輛とは言いません。また、交流形電車や交直流両用電車は、交流を扱う保安上の理由からパンタグラフ部分を低屋根構造としており、低屋根車輛とは言いません。
 現在では、パンタグラフの改良が行われ、専用の低屋根車輛を製造する必要がなくっています。ただし、狭小トンネルを通過できる事を示す記号「◆」が形式記号の左側に付けられています。
◎霜取りパンタグラフ

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 冬になると、地面に「霜柱(しもばしら)」が出来る事があります。サクサク踏んで子供たちは大喜び。鉄道でも架線に霜や氷が付着する事があります。これがとても厄介な存在になります。この部分にパンタグラフが接すると、火花(アーク)が飛び散ります。
この火花を出し続けるとスライダーが溶けて偏摩耗を起こすほか、架線が溶けたり、最悪は切断という事態になってしまいます。また、氷が厚いと電気が流れなくなり、運転が出来なくなる事もあります。
 このような事を防ぐために、架線にヒーターを設置して温める方法があります。車輛側では、この霜や氷を取り除く目的でパンタグラフを設置する場合があり、これを『霜取りパンタグラフ』と言います。

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P:Tuboフォトオフィス様撮影

 写真のように集電用と分けて設置される場合が多く見られます。冬季以外は下げている姿が一般的です。

○第三軌条集電方式

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 架空電車線方式とは異なり、軌道と並行して設置される電気を供給するレールを敷設(これを第三軌条と言います。)し、そこから集電する方式です。
 トンネル断面を小さくする事で建設費用を抑えられることから、地下鉄線で見られます。
集電装置は台車に設置されており、この集電装置を「集電靴(しゅうでんか)」と言います。

②電気を車内へ取り込む

 集電装置で取り込まれた電気は電気車の様々な機器へ供給されていきます。その前に、架線に流れている電流の異常や落雷による高圧電流が入ってしまうと、機器の故障が起きてしまいます。このような事を防ぐために『断流器』というものが設けられています。

さあ、ここまで電気車の仕組みは解りましたか。その2では「電車を制御する」という、ちょっぴり難しいけど、電気車の動く仕組みをお勉強しましょう。