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③④電気車を制御する

 電気車に電気が来たから動く。という訳ではありません。これを『制御』、つまりコントロールをしなければなりません。まずは、加速する仕組みを学びましょう。
④運転台を見てみよう。

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 車輛のあらゆる制御をしたり、機器の状態などを確認するための部屋を「乗務員室」と言います。ここには皆さんもご存じの「運転士」や「機関士」と呼ばれる技術職人が機器を扱います。この乗務員室がある車輛を電車では「制御車」や「制御電動車」と言います。(ドアを扱ったり、上手な放送する「車掌」が乗務する場合は車掌室として、利用しています。)
 乗務員室には様々な機器があり、保安上の理由から無断で立ち入ると罰せられますので、決して入ってはいけません。
 写真の左は電車、右は電気機関車の運転台の様子です。電気車を動かす装置を『主幹制御器』と言います。自動車でいうアクセルに相当するものです。

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 運転台から複数の車輛を制御する事もあります。つまり、いくつもの電動車の加速や減速などを一人で操作します。これを『総括制御』と言い、この指示は電気信号によって行われます。この電気信号のほか、車内の電燈や様々な電気機器の電気などを隣の車輛に伝える線をジャンパ栓(写真左)と言い、中には何本もの電線が束ねられています。(写真中央)
 列車の増結や分割時には係員がその都度、ジャンパ栓を付けたり外したりします。回数が多い場合は大変な作業なうえ、この作業中は列車が動けないためダイヤ上のネックでもありました。そこで、作業の軽減、時間短縮による到達時間短縮を図るため、増結や分割の多い路線で走る車輛には『電気連結器』というものが装備されています。(写真右)連結と同時にジャンパ栓をつないでしまう優れものです。
③制御方式を学んでみよう。
 電車を加速させるための方法はいくつかあります。この方法を『制御方式』と言います。どんなものがあるのでしょうか。その前に・・・

イ.主電動機(モーター)の動く仕組みを学ぼう。

 様々な制御方式を紹介しますが、最終的に電気車を動かすには電動機(モーター)です。鉄道ではこの動かす電動機を「主電動機」と言います。
 では、この電動機の構造はどうなっているのかわかりますか?簡単なイメージ図で見てみましょう。

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 イラストは電動機を上から見たものです。緑色の線は電線です。電動機の外側には『界磁』と呼ばれる磁石があり、電気が流れると電磁石になります。界磁の内側にある黄色い線が『電機子』と呼ばれる電磁石です。イラストでは1本しか描いていませんが、鉄棒に沢山の銅線が巻かれています。電機子の下には『整流子』といって、電流の方向を変えるスイッチの役割をします。その隣にある『ブラシ』は整流子に接触し、電流を流す役目をするものです。
 では、電流を流してみるとどうなるのでしょう。電源から赤い矢印方向へ電流は流れます。界磁が電磁石になり、それぞれN極とS極になります。その間に挟まれた電機子は『フレミング左手の法則』によりaが下方向へ、bは上方向へと動き、電流が流れ続けている間はクルクルと回転し続けます。この回転力は車輪の回転などになります。
 この界磁の配線を変える事で、特性の異なる電動機を作る事が出来ます。

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直巻電動機・・・負荷が大きいと大きな力を出し、小さくなると力が出なくなりますが、回転数が高くなるという特性をもつ、鉄道車輛向きの電動機です。交流又は交直両用の電気車では、脈流対策を施した脈流直巻電動機が使われています。

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分巻電動機・・・負荷の変動にかかわらず、一定の回転を行う特性の電動機。

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複巻電動機・・・直巻と分巻の界磁をもった電動機で、分巻でありながら直巻の特性に近い性能をもっています。回生ブレーキを安定して使用できるのが特徴です。

どうでしょうか。電動機の仕組みが解ったでしょうか。

ロ.制御方式のいろいろ

①抵抗制御方式(直並列抵抗制御方式)
 電動機に電圧や電流を直接与えるとどうなるでしょうか。そう、電動機はその電圧や電流に対する回転を始めますね。小さな電圧ならともかく、鉄道の場合はとても高い電圧や電流があるため、焼損や過大な回転が発生し、空転などを起こしてしまいます。
 この問題を解消する方法として、「小さな電圧や電流を与えながら徐々に高めていく」という方法があります。これは鉄道模型のコントローラに見られるもので、本物ではちょっぴり難しいですね。
 そこで、「電源から電動機までの間に電流を流れにくくする。」方法が用いられます。これを「抵抗を与える」と言います。

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 図のように、抵抗を与える機器を『抵抗器』と言います。そして、この抵抗器を用いた制御方式を『抵抗制御方式』と言います。
この抵抗器は使用すると熱が発生するのが特徴です。(電気エネルギーを熱エネルギーに変換するため。)

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 抵抗器の排熱方法は2つあり、1つは『自然通風式』と言い、外気とふれさせる方法と、もう1つは『強制送風式』という、送風機(ブロアモーター)を使用して強制的に排熱する方法があります。
 さて本題に戻りまして、抵抗器を経由した電流値は小さくなり、電動機がゆっくり動き始めました。ところが、ある回転数に達するとそれ以上は回転しなくなります。どうしたのでしょう?

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 回転数が上がると電機子には加えている電圧と逆向きの力が作用するのです。これを『逆起電力』と言い、逆起電力が増加すると電流が減り、電動機の回転が低下します。
つまり、逆起電力を上回る電圧を加えてあげれば回復し、さらに回転数を上げる事が出来ます。電圧を上げるには抵抗器を通る電流のコースを変えてあげればよい事になります。
 この抵抗器には高い電圧がかかっています。どうやって制御するのでしょう?この制御をする機器を『主制御器』と言います。

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 この主制御器に指示を与えるのが、運転士が操作する『主幹制御器(マスコン)』です。低圧電気による電気信号で、主制御器に指示を出します。主制御器ではその指示に従い、カムを用いて抵抗器のコースをつくっているのです。このように高圧電気で動く機器の操作を低圧電気で動かす方法を『間接制御方式』と言います。
抵抗器のコースを変える事を『進段』と言い、1段目は全部の抵抗器が挿入され、抵抗器には最大の負荷がかかる一方、電動機は最も高い力を出します。その後、抵抗が少しずつ抜かれていきます。
★ガクンガクンさせない

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 皆さんは、抵抗制御方式の電車に乗った事があるでしょうか。その時の事を思い出して下さい。発車して加速をしばらく続けている間に、段階的な揺れを感じた事がないでしょうか。これは、抵抗制御の問題の一つで、進段する際に電流値の跳ね上がりがあり、電動機の回転数が急速に変化し、動揺を起こしているためなのです。雨や雪が降っていると激しい空転を起こす事もあります。
 この問題を解決する方法は進段数を多くする方法です。この方法として、抵抗器を多くするか、抵抗器の抵抗率を変える方法があり、多数の組み合わせを設定する事が出来ます。

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 空転に対して条件の厳しい電気機関車では、『副抵抗器』を別に用意し、進段時にこれを挿入して電流の微調整を行っています。この方法を『バーニア制御』と言います。バーニアとはノギス(長さを図る道具)の補助目盛(副尺)が由来です。
 電車でも乗心地改善を目的に電気機関車のような構造を持った車輛があり、『超多段制御』と呼びます。
★もう一つの問題
 抵抗制御方式の問題に『抵抗損失』があります。電動機へ加える電圧を抑えるため、余分な電圧は抵抗器で電気エネルギーから熱エネルギーに変換して消費してしまいます。

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 この無駄を少なくする方法として『直並列組合せ制御』があります。起動時は左のように電動機を1列に並べた回路(直列(シリース)段)とし、1つの電動機に1/4の電圧が加わります。ある程度速度が高まった時点で、2つずつに分けた回路(並列(パラ)段)にします。こうする事で、電圧は1/2となり、加える電圧を2倍とすることも出来ます。

構造が簡単で、メンテナンスもし易いのが抵抗制御方式の良い所で、数多くの車輛に採用されており、しばらくは活躍が見られそうです。

②弱め界磁制御方式
 抵抗制御・組合せ制御方式が進段を繰り返し、最終段まで進みました。電動機には最大電圧が加わり、回転速度を上げようとするならば逆起電力がますます強くなり、電流が減少してしまいます。
 何とかして回転数を上げたい。逆起電力を応援しているのは誰だ?この正体は電機子の外側にある界磁の磁力なのです。(下図①)

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界磁に流れる電流を弱めると磁力が減少します。つまり、界磁の両端を短絡回路を設ける事で磁力が弱まり、電圧を変えることなく、電流を流す事が出来ます。これで回転数を上げる事が出来ますね。(上図②)
この制御方法を『弱め界磁制御方式』と言います。界磁を弱めすぎてしまうと電機子が止まってしまうので、弱めるのにも限界があります。

③電圧制御方式(タップ制御方式)
 電圧を直接変化させる方法で、制御の応答性が良い利点があります。しかし、直流電源を制御するのは難しく、大掛かりな装置が必要になってしまいます。このため、交流向けの制御方式として生まれました。
 交流は変圧器を用いて電圧を容易に変えられる事から、巻数(鉄心に線を巻いた数)を変える事により、出力電圧を制御し、整流器で直流に変換する方式を『電圧制御方式(タップ制御方式)』と言います。

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○仕組み
 パンタグラフが取り込んだ高圧交流を1次巻線(1次側)、変換し出力される低圧交流を2次巻線(2次側)と言います。タップ切換器は起動時は①からスタートします。(イラストはイメージ図で、実際はもっとたくさんあります。)
 高圧交流は変圧器の一番遠い場所まで流れていきます。この時、巻数が一番多いため、電圧は降下していきます。そして、2次側と向き合った所で『電磁誘導』により、2次側に電流が流れます。(電磁誘導とは、コイルの中の磁界が変化すると、コイルに電流が流れる現象。この電流を誘導電流と言います。身近なものでは、IHクッキングヒーターなどの電磁調理器。ヒーターの中にコイルがあり、強い電流を流すと磁場が発生。この上に鉄やステンレスといった電気を通し易い金属を置くと、電磁誘導により渦電流が発生し、抵抗で発熱する仕組みです。)
 2次側の交流(低圧交流)は整流器で直流に変換されて、電動機を動かします。(この当時は交流を電源とする主電動機は無く、直流電源の主電動機しかありませんでした。)ある程度加速が進むと、タップ切換器では①から②へと切り替えられ、その後③、④へと徐々に電圧を上げて、電動機の回転数を上げていきます。
 タップ制御には「高圧タップ制御」と「低圧タップ制御」の2つがあり、変圧器の位置が異なります。高圧タップ制御では、扱う電流が小さく、切換段数が多く取れる利点があるものの、変圧器が大型で重量のあるものとなってしまう欠点があります。一方、低圧タップ制御はコンパクトに出来る利点があり、一般的に用いられています。
○整流器の仕組み
 交流から直流へ変換する装置を『整流器』と言い、AC-DCコンバータとも言います。いま、皆さんがお使いのパソコンや携帯電話、家にあるテレビなどは直流電源で動きます。でも、家に送られてくる電気は交流です。これらを動かすためにACアダプターがありますが、それも整流器の一つです。

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 交流を直流に変換する訳ですが、交流の+(プラス)側だけを取り出します。これを整流器の中にある平滑回路というものに通すと、頂点を結ぶような電流に仕上げます。この頂点を連続して結ぶと直流のような線になりますね。こうして、直流として送り出しています。
 当初は水銀整流器が使われていましたが、毒性など扱いが難しく、切換が簡単に出来るシリコン整流器が登場し、主流となっています。

◎半導体のお話。
 時は1960年代。この頃になると電機業界にあるものが登場します。その名は『半導体』というものです。現在では私たちの生活を支える重要な存在となっていますが、そもそもこの半導体とは何物なのでしょう。
 通常、金属など電気を通す物質を「電気導体」と言い、煉瓦やゴムなど電気を通さない物質を「絶縁体」と言います。この両極端の性質の間にある物質を「半導体」と言い、条件や温度などによって電気を通す事が出来る不思議な存在なのです。
 鉄道の世界では電力用半導体素子が使われており、パワーデバイスとも言われています。電力制御用に最適化されているのが特徴で、高電圧、大電流を扱えます。
どんなものがあるのでしょう。いくつか例をあげています。覚えておいても損はない・・・と思いますよ。
ダイオード(diode)

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図のように電流を一定の方向しか流さない作用(整流作用と言う。)を持つ半導体です。
サイリスタ(thyristor)

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主にゲート(G)からカソード(K)に電流を流すと、アノード(A)よりカソードに電流を流す事の出来る半導体素子。SCR(Silicon Controlled Rectifer):シリコン制御整流子とも呼ばれています。
GTOサイリスタ(GTO:Gate Tarn off thyristor)
サイリスタの発展型で、自己消弧つまり、電気を流す条件であるゲートからカソードへ流す電流を自分で切る事の出来る機能をもった半導体素子です。
トランジスタ(transistor)
電流を増幅させる事やスイッチを動作させる事の出来る半導体素子です。バイボーラトランジスタとも言います。
MOSFET(metal oxide semiconductor field effect transistor)
トランジスタの一つで、スイッチング素子の一つです。大電力を扱えるようにしたMOSFETをパワーMOSFETと言います。高速スイッチングが可能ですが、耐電圧による温度上昇の欠点があります。
絶縁ゲートバイボーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)
MOSFETを組み込んだバイボーラトランジスタで、大電力による高速スイッチングが可能という利点があります。現在、VVVFインバータ制御方式を採用する鉄道車輛の主力素子となっています。

④位相制御方式(サイリスタ位相制御方式)

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交流電気を制御するタップ制御方式ですが、電力効率の面ではすぐれている一方で、抵抗制御方式と同じくタップを切換える時に電動機の回転数が急激に変化するほか、大電流を入切するため、アーク(電弧:火花)が生じ易く、変圧器に損傷を与えてしまう欠点がありました。
半導体技術が進み、これを使わない手はない。という事で「サイリスタ」を用いて、タップ切換時の電圧差を連続的に制御する方式がこの位相制御方式(サイリスタ制御方式)です。

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仕組みはサイリスタに信号電流(トリガーと言う。)を流して、位相を変化させます。上図のようにトリガーを流さなければ交流は波形を描いたままです。図では25%になりますが、交流の波形を25%の所まで信号電流を与える、つまり時間を区切って電流を流すという事で、徐々に出力を上げていく方法です。解り易く言えば、周波数を変えずに電圧を徐々に上げていく方式です。
位相制御方式のイメージ図にあるタップ切換器①をオンにして、トリガーを0にするとアークは発生しません。その後、トリガーを徐々に上げていくと最大値になります。①をオンのまま、②をオンにして①と同じくトリガーを徐々に上げて最大値にします。②が最大値になると、①のタップをオフしても②に同じ電流が流れているので、アークは発生しません。これを③→④と連続的に制御していきます。こうして整流器と同じ直流電源を取り出します。
アークが発生しないことから、別名「無電弧タップ制御方式」や「タップ間連続電圧制御方式」とも言います。
位相制御方式(サイリスタ連続位相制御方式)
半導体の登場はこれからの鉄道車輛に新しい時代の幕開けを告げるものでした。この当時、交流電気機関車の開発が行われており、タップ制御方式、サイリスタ位相制御方式が登場しました。
このサイリスタ連続位相制御方式はサイリスタ位相制御方式に半導体技術をさらに導入したものです。

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簡単に言えば、アークの発生源となるタップ切換器を半導体(サイリスタ)に置換えてしまおう。という事です。

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仕組みは、正弦波を切り取って制御するもので、①が水色、②が桃色、③がウグイス色、④は黄色で最大出力。といった具合です。
機器がコンパクトなる他、メンテナンス面でも優れていましたが、誘導障害が問題となりました。この方法は正弦波を途中で切ってしまうため、交流電源の持つ周波数とは異なる高調波というものが生じ、車輛の周辺にある送電線や通信回線に電気が流れるなどの通信障害を引き起こしてしまいます。特に信号保安システムでは、この誘導障害は深刻な問題で、停止信号が信号信号を現示してしまう。などの問題があります。
このため、厳重な対策が必要とされています。当時は誘導障害の問題が克服されず、数形式の交流電気機関車に採用されるにとどまってしまいました。

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誘導障害のイメージ図

チョッパ制御方式

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 このチョッパ制御方式が考え出された背景には、地下トンネル内の温度上昇改善がありました。昭和40年代帝都高速度交通営団(現:東京メトロ)が考えた方式です。
 「チョッパ」とは切り刻むを意味し、電流を切り刻む方法で電圧制御を行うもので、抵抗制御方式で見られる抵抗器がありません
 スイッチはサイリスタなどの半導体素子で、無接点で高速でオンオフを行います。このオンとオフの時間を変えることで、任意の電圧にする事が出来ます。この方法は「パルス幅変調制御方式(PWM:pulse width modulation)」とも言います。
 昭和43年に世界で初めてチョッパ制御方式を採用したのが営団6000系電車です。国鉄では少し遅れて、201系通勤形直流電車で初めて登場しました。

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世界初のチョッパ制御方式を採用した営団6000系(左)と国鉄では初採用の201系(右)

 チョッパ制御方式では主に「電機子チョッパ制御」で、「チョッパ制御」や「サイリスタチョッパ制御」とも言われています。
この他に、界磁抵抗を廃止した自動可変界磁制御AVFAutomatic Variable Field control)や自動界磁励磁制御AFEAutomatic Field Excite control)があります。
 チョッパ制御方式は1970年代に登場した初期の半導体技術を用いた制御方式のため、導入コストが高い(写真右の201系は10両編成で10億円(当時)したらしい。)問題があり、主に地下鉄線で使用される車輛に採用されました。

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写真左はTuboフォトオフィス様撮影
チョッパ制御装置の外観と内部の様子。中にはコンピューターが入っています。

界磁制御方式
 パワーエレクトロニクスの発達に伴い登場したチョッパ制御方式は回生ブレーキの使用など電気車に大きな変化を与えましたが、大きな問題がありました。それはチョッパ装置が高価である事。
 この頃はオイルショックにより、省エネを推進しようという動きがありました。最新のチョッパ制御装置を導入したくても高価では・・・と私鉄では導入に戸惑いを隠せません。
 そこで考え出されたのが、従来の抵抗制御方式とサイリスタなどの半導体とのコラボレーションです。
 電動機の界磁を操作する「弱め界磁制御方式」の界磁制御をもっと積極的に制御する事で、回生ブレーキや定速制御を可能とする事が出来ます。この発展させた制御方式を『界磁制御方式』と言います。
 力行時(加速時)は抵抗制御と古いシステムですが、低コストでチョッパ制御方式に近い性能を得られることから、VVVFインバータ制御方式の誕生まで私鉄を中心に採用例が相次ぎました。代表的な界磁制御方式を紹介しましょう。
界磁位相制御方式

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複巻電動機を用いる方法で、分巻界磁部分を独立させ、補助電源装置による他励方式としたものです。このため「他励界磁制御方式」とも言われています。
界磁チョッパ制御方式

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複巻電動機を用いる方法で、分巻界磁と直巻界磁を並列に配し、分巻界磁の流れる電流をチョッパ制御として、界磁を制御する方法です。私鉄各社で多くの車輛に採用されました。
界磁添加励磁制御方式

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複巻電動機は構造が複雑な事から、直巻電動機を用いた制御方式です。直巻界磁に分流回路を設け、添加励磁装置から誘導コイルに向けて逆向きに電流を流して界磁を制御する方法となっています。

VVVFインバータ制御(可変電圧可変周波数制御方式)
 従来の制御方式とは全く異なり、『交流電動機』と『インバータ』を用いた制御方式です。従来では抵抗器などの理由により、回転数などが決まっていましたが、この方式では交流電動機の回転数やトルク(力)は周波数と電圧を調整すれば無段階に設定が可能となっています。つまり、周波数と出力した交流電力を任意に制御する方法で、このような制御方式を『可変電圧可変周波数制御方式』と言い、『VVVF:Variable Voltage Variable Frequency』とも言います。このVVVFは和製英語で、英語ではAVAF:Adjustable Voltage Adjustable Frequencyと言います。
 VVVF制御方式のほかに、CVCF制御方式(定電圧定周波数制御方式)、VVCF制御方式(可変電圧定周波数制御方式)、CVVF制御方式(定電圧可変周波数制御方式)があります。
 なんか難しい感じですが、VVVFインバータ制御方式は鉄道の電車や電気機関車に使われているほか、身近なものでは電気自動車やハイブリットカー、エレベーターなどの輸送用機器、ファンやポンプなどの産業用機器、家庭用エアコンや冷蔵庫、洗濯機など家庭用電気機器に幅広く使用されています。

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 上図のイメージ図は直流電車のもので、直流をインバータで三相交流に変換し、交流電動機を動かす。という感じです。交流電気車はダイレクト?ではありません。現在の所、交流電力を変換する大電力用のインバータがないため、一旦直流に変換し、再び三相交流に変換する方法となっています。
 インバータで交流に変換する方法のほかに、直流で交流に似た正弦波を作る方法もあります。それがパルス振幅変調方式(PAM:pulse amplitude modulation)、パルス幅変調方式(PWM:pulse width modulation)です。簡単言えば、スイッチを設けてオンとオフの時間の長さを変える事で交流を作るというものです。
 これらの電力変換を行うためにはスイッチが必要です。大電力を使用するVVVFインバータ制御には欠かせないもので、このスイッチをもった『半導体(素子)』(スイッチング素子という。)が必須となります。2つあり、「3レベルインバータ」は耐電圧の低い素子を使用するため、電源に工夫を施したもの。もう一つは「2レベルインバータ」というもの。これは直流電源のオン-オフするだけの単純なものです。初期の頃は逆導通サイリスタ(RCT)やGTO素子が用いられた3レベルでしたが、技術の進展により、低耐圧モジュール型GTO素子やIGBT素子の登場により2レベルが一般的になっています。
 VVVF制御方式の利点は全体的な省メンテナンス化が図れることです。交流電動機は直流電動機にある摩耗品の整流子やブラシが無いため、メンテナンス面では優位です。また、小型、軽量化が容易である上、高出力、高回転も安易に可能です。編成でのMT比(電動車(M)と付随車(T)の比率)では、電動車を少なくする事もできるため、低コストで車輛が製作できます。
 減速する時も電気ブレーキや回生ブレーキを優先(非常ブレーキは除く。)されるため、制輪子やブレーキパットの摩耗が少なく済むので、この面でもメンテナンス軽減が図られます。
 このため、現在の電気車の制御方式として積極的に採用されています。

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VVVFインバータ制御装置の外観。いろんな形状があります。
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鉄道会社によっては「車体制御装置」と呼んでいる場合もあります。
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新幹線を含む交流電気車の場合はコンバータ部、インバータ部、制御装置などを一つにした装置になっており、『主変換装置』と言います。略称は「CI:Converter Inverter」です。交流電気車には交流を直流に変換する「コンバータ(整流器)」があるため、主変換装置と呼びます。直流電気車にはコンバータは不要であるため、VVVFやインバータなどと表記されています。

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VVVFインバータ制御装置の内部の様子。電子機器がたくさん。
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素子によっては、ドレミの音階を奏でる車輛もありました。例は京浜急行2100形です。(現在は機器更新により聞けなくなってしまいました。
 と、良いことづくめの制御方式ですが、欠点もあります。この制御方式に限った事ではありませんが、多くのパワーエレクトロニクス機器が抱える問題として電磁ノイズがあります。鉄道では誘導障害の事で、厳重な対策を必要としています。
 ひとつ例をあげてみましょう。下の写真にあるアンテナが屋根上にあるのを見た事があるでしょうか。

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これは「ラジオ電波増幅装置」と言い、AMラジオを聴くとインバータ音が雑音として入ってしまうため、ラジオ電波を増幅して車内に送り込む装置です。これが無いとラジオが雑音だらけになってしまいます。

交流電動機の仕組み

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さて、VVVFインバーター制御方式では『交流電動機』を使用する。と言いましたが、この交流電動機は直流電動機と何が違うのでしょう?交流電動機では一般的な『三相誘導電動機』で説明しましょう。

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まず三相交流は上図のような波形を持つ交流電気です。それぞれの相にV相、U相、W相という名前があります。この端子を配置するには均等に配置しなければならないのと、+極と-極がそれぞれ必要なので、360÷6=60°となります。

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交流電動機は外側に端子を付ける「固定子」と内側の空洞に回転をし、動力を生み出す「回転子」からなります。固定子に電極を付けると上図のようになります。それぞれの相の真向かいに同じ相の端子が配置されています。

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これから動かしますが、上図のグラフも参考にしてみて下さい。

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①電気を流すとそれぞれの相に電気が流れ、回転子に磁極が発生します。(※回転子は動きを解り易くするため、矢印にしています。)

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右ねじの法則により、回転子は右へ動き出します。V相は電圧が0Vなため、磁力が発生しません。

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③動き出すとそのまま回転子は右へ進んでいき、回転により動力が発生します。

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④回転子は電気が流れ続けている限り回転をします。周波数の変化により回転速度が変化します。

主な制御方式をご紹介しましたが、何となくご理解頂けたでしょうか。電気車を学んでみようその2はここまでです。