「駅を学んでみよう その1」と「駅を学んでみよう その2」では、駅の中にあるものをご紹介、お勉強して頂きましたが、その3では駅の種類を学んでみましょう。
駅のいろいろ
全国各地にある駅。都会にある駅や田舎にある駅。様々な場所にあります。そして、大きさもいろいろあります。このため、地形や場所によっていろいろな種類の駅があります。
①地上駅
駅舎、ホームともに地上にある駅をいいます。この後紹介する「割堀駅」という駅もこの分類として扱われる事もあります。
地面の上に直接設置するため、工期も短く、費用も安価である事から最も駅の種類としては多く、方々で見る事が出来ます。一方で、駅舎の無い側からの利用は不便で、これを解決するために、駅舎を多く必要とする欠点があります。
地上駅は地域を分断する事にもなり、都市部を中心に「橋上駅」や「高架駅」、「地下駅」に改築される(された)駅も多くあります。
地上駅の例
左から、東海道本線他東京駅 深名線朱鞠内駅(廃駅) 上田電鉄別所線八木沢駅
左から、東武鉄道佐野線葛生駅 川越線南古谷駅 西武鉄道新宿線沼袋駅
左から、京浜急行大師線川崎大師駅 御殿場線松田駅 東海道本線御殿場駅
左から、参宮線、近畿日本鉄道山田線伊勢市駅 名古屋鉄道三河線猿投駅 伊賀鉄道上野市駅
左から、京阪電気鉄道石山坂本線石山寺駅 南海電気鉄道汐見橋線木津川駅 伯備線他新見駅
左から、一畑電車北松江線園駅 高松琴平電気鉄道志度線 琴電志度駅 土讃線大杉駅
地上駅の移動手段
地上駅では駅舎からホーム、ホームからホームへの移動に必要な設備があります。
イ.構内踏切
駅舎とホームを結ぶ手段として最も簡単な方法です。しかし、列車が通過する間や停車してしまうと通路が遮断されてしまう欠点があり、無理に横断した結果、運行を妨げたり、死傷事故の発生という問題があります。このため、廃止されて跨線橋に転換するケースが多く見られます。
構内踏切の例 踏切設備が渡り板のみの宗谷本線豊清水駅 踏切設備を設けた東京急行電鉄池上線池上駅 警報機には踏切とは異なるものが設置されているものがあります。
ロ.跨線橋
構内踏切より安全度が高い設備で、地上駅の多くで見られる設備です。列車の往来に関係なく、通行が可能となった一方、バリアフリーではない設計(階段のみ)であるため、障がいのある方やお年寄りには不便である一面もあります。近年は添うようにエレベーターの設置が行われた駅も多くあります。跨線橋には種類はいくつかあり、使用する部材や屋根の有無などがあります。
跨線橋の例その1 JRでは最古(明治43年)の跨線橋として知られる武豊線半田駅の跨線橋(左)、屋根なしのスタイルの例、関西本線永和駅(中央)、レールの骨組みで組まれた跨線橋の例 水戸線新治駅(右)割と多く見られます。
跨線橋の例その2 木造でホームに2ヶ所出入口を設けた跨線橋。山陽本線白石駅(左)、雪国仕様で窓が少なめなタイプ。(中央)石北本線安足間駅 階段出入口を待合室とした例。出入口には扉が設置されています。(右)石勝線十三里駅
ハ.地下道
跨線橋と同じく、列車の往来に左右されない安全な通路です。跨線橋を設置するには場所がないなどの理由で設置されているようです。地下を掘るため工事費は高い上、増築に対応する事が難しい欠点があります。
地下道の例 左より、本線は広く、支線となる富良野線は幅が狭い(写真奥)設計の旭川駅(現在は高架駅になり廃止。)トンネルスタイルがユニークです。南武線川崎新町駅 幻想的な回廊が優美な山陽本線宮島口駅の地下道。
★珍しい構内踏切
この3枚は秩父鉄道で見つけたものです。写真左は樋口駅で、改札口を出るといきなり遮断機が。見ての通り、先が細く危ないために設置されています。中央と右は親鼻駅です。中央の写真を見るとごく普通の構内踏切ですね。しかし、この構内踏切は一般の道路を兼ねたもので、離れてみてみるとその様子がわかります。(写真右)不正乗車が無いように駅員さんが常に監視をしております。
②地上駅(貨物用)
駅には貨物を専門に扱う『貨物駅』があります。貨物駅はほぼすべてが地上駅となっています。旅客用駅とは異なり、広大な敷地に何本もの線路が配されたターミナル駅から数本程度の小さな駅まで様々あります。
現在では日本の鉄道貨物輸送は「コンテナ」輸送が大部分となっています。かつては紙などを有蓋車で輸送する「車扱い(しゃあつかい)」というものがあり、これらの荷役を行う専用のホームがありました。貨物にはガソリンなどの石油類やセメントなどがありますが、これらの場合は駅構内より延びる『専用線』という引き込み線があり、近隣の工場や倉庫の一角で荷役扱いを行います。かつては多数あった専用線も、大量に輸送する必要のある石油類を扱う路線のみが中心となっており、寂しくなっています。
現存する貨物駅では、余り知られていませんが大きな進化をしているのです。その名は『着発線荷役方式』というものです。別名『E&S(Effective&Speedy Cintainer Handling System)方式』とも言い、貨物列車が発着する線路部分にコンテナホームを設け、コンテナの荷役を行う方式です。
貨物列車が発着する線路が電化区間である場合、架線があるため、コンテナを荷役するフォークリフトやトップリフターなどでは接触する恐れがあり作業が出来ませんでした。このため、列車が到着すると架線の無い荷役線まで、入換を行い、荷役が終了すると再び発着線まで入換を行うという、車扱い貨物と変わらない方法でした。この作業時間が長ければ長いほど、列車の運転時間が長くなってしまいます。
このロスタイムを短縮するためにE&S方式が考えられました。
まず、列車が到着し、架線の送電を停止します。その後、架線を損傷させないE&S方式に対応したフォークリフトやトップリフターで荷役を行うというものです。これにより、途中駅での荷役作業時間が大幅に短縮され、貨物列車の到達時間が短縮されました。現在もこの方式に改良する貨物駅が少しずつ増えています。
貨物駅の例
左より、仙台臨海鉄道仙台港駅 名古屋臨海高速鉄道西名古屋港線(通称あおなみ線)名古屋貨物ターミナル駅 名古屋臨海鉄道東港駅
衣浦臨海鉄道半田埠頭駅 鶴見線浜安善駅(現在は安善駅の一部) 神奈川臨海鉄道浮島線浮島町駅
●コンテナ荷役に使われる車輛
説明に出てきたコンテナ荷役に使われる車輛です。コンテナにも様々なサイズがあるため、これらに対応した車輛が用意されています。写真左は12ftコンテナ用のフォークリフトです。先端に飛び出た爪の上にコンテナを載せて荷役をします。中央は20ftクラスの中型コンテナも荷役が出来るフォークリフト。隣のコンテナと比べると大きい事がわかりますね。右はトップリフターと呼ばれる大型コンテナやタンクコンテナを荷役する車輛で、コンテナを吊るして荷役をするものです。
この写真は何かわかりますか?これは『貨車計量機』というものです。貨物輸送料を荷主に請求する際に使われていたもので、貨車ごと秤に載せて貨物の重量を図量るという設備です。左の小屋が測定室で、その前の線路に貨車を置いて量ります。
●この他の貨物駅
かつての貨物輸送は旅客駅の一角に写真左のような貨物用のホームがありました。扱うものによっては写真のように倉庫があり、貨車へ荷役を行っていました。
写真右は旅客駅と併設した貨物駅の例です。写真は予讃線新居浜駅で、コンテナホームが設置されているのがわかります。現在はこのような形態の駅が少し残っています。
③橋上駅(きょうじょうえき)
線路は地上、駅舎を線路、ホーム上の上階部分に集約した駅を言います。地上駅と跨線橋を一体化した構造が特徴で、地上駅では線路を挟んだ場合、駅舎を2つ以上必要としますが、橋上駅では改札口などを1つに集約できる利点があります。また、自由通路を設ける事で、線路で分断されている地域相互間の利便性を向上させる事も可能です。駅舎にたどり着くまでは階段が主流でしたが、最近はエスカレーターやエレベーターなどのバリアフリー対策も行われています。
橋上駅舎の最大の利点は、ホーム上の空間を自由に使える事で、商業設備など鉄道事業以外の事業を展開する事例があります。このように駅構内に商業設備(店舗など)を設置する事を『駅ナカ』と一般的に言われています。店舗はその鉄道事業者の関連企業が主となっています。
橋上駅の例
左より、草津線貴生川駅 阪和線和泉府中駅 新京成電鉄くぬぎ山駅
④高架駅
高架化された鉄道路線や山岳地帯などで高低差を解消する目的で設置された駅を言います。モノレールや新交通システムにも採用されている駅で、建設費は高いものの、線路が高架上にあるため、踏切の解消による交通渋滞の緩和、路線の高速化など利点が多数あるため、都市部を中心に見られる駅となっています。高架下は橋上駅と同じく、駅ナカ事業などに利用されています。
高架下の有効活用は古くから行われており、飲食店を始め、倉庫、駐車場など色々あります。写真左は中央本線神田駅付近の様子。右は中央本線東小金井駅に作られた商業施設です。
高架駅の例
左より、上越新幹線上毛高原駅 五日市線武蔵五日市駅 中央本線西荻窪駅
左より、京成電鉄成田空港線(成田スカイアクセス線)成田湯川駅 東京モノレール整備場駅 東京臨海新交通(ゆりかもめ)豊洲駅
左より、近畿日本鉄道山田線宇治山田駅 名古屋臨海高速鉄道名古屋港線(あおなみ線)南荒子駅 大阪市交通局南港ポートタウン線住之江公園駅
左より、北陸本線金沢駅 山陰本線出雲市駅 西武鉄道池袋線練馬駅
⑤地下駅
ホームが地下にあるものや駅舎自体も地下に集約したスタイルの駅を言います。主に、地下化された路線や地下鉄の駅に多く見られます。地下にあるため、駅の規模に対して構造物が大きく、建設費は非常に高い。その後の維持費も多くかかってしまう欠点があります。一方で、地上の土地を占有する面積が小さいため、土地の少ない大都市では有効な手法の駅となっています。
地下駅の例
左より、京成電鉄・芝山鉄道東成田駅 東京臨海高速鉄道国際展示場駅 京成電鉄幡ヶ谷駅
東京メトロ丸の内線新大塚駅 東京メトロ千代田線新御茶ノ水駅 東京メトロ有楽町線要町駅
左、横浜高速鉄道みなとみらい線元町・中華街駅(構内)、中央・右、北陸本線筒石駅
⑧他の施設などが併設された駅
橋上駅、高架駅で「駅ナカ」をご紹介しましたが、『駅ビル』という言葉を聞いたことがありますか?この駅ビルとは駅舎を大きくし、商業施設などの駅機能以外の機能を持たせたものです。「駅ビル」と「駅ナカ」何が違うの?とお思いの方もいるでしょう。
「駅ビル」は改札の外に商業スペースを設けています。このため、駅舎の横に併設されたスタイルも多くあります。また、利便性をよくするために、専用の改札口が設けられている場合もあります。「駅ナカ」は文字通り、改札内、つまり駅構内に商業スペースを設けているもので、鉄道利用者を対象にした点が駅ビルとは異なります。改札外から利用する場合は、入場券を購入の上、時間に注意して利用(2時間くらい)する事が出来ます。「駅ビル」と「駅ナカ」は場所の違いで呼び方が変わります。
多くの駅ビルでは、店舗は百貨店、飲食店が中心で、企業の事務所やホテルなどもあります。また、土地柄にあわせて観光客の多い駅では、お土産を中心に取りそろえたお店などがあります。
この駅ビルの歴史は古く、大正9年に登場した阪急電鉄梅田駅が第1号です。鉄道会社の増収策(郊外の沿線住民に鉄道を利用してもらい、百貨店で買い物をしてもらおうというもの。)としては有効なもので、私鉄各社でその後建設が相次ぎました。
国鉄(現:JR)での駅ビルの誕生は戦後になります。主要都市が焼け野原となり、駅舎も消失し、仮駅舎で復興が始まりました。しかし、線路や車輛の復興が優先され、駅は遅れ気味でした。そこで、民間の資金を導入して復興を促進する事にし、この際に駅に商業施設を建設する事にしました。この駅を『民衆駅』と呼びます。
民衆駅の第1号として昭和25年に豊橋駅が誕生します。これ以降、駅の改築や建替え時に民衆駅になる駅が増えていきました。昭和48年に平塚駅が誕生し、この頃に『駅ビル』と呼ばれるようになり、「ステーションデパート」という名称も生まれました。
民衆駅は駅の活性化に大きな貢献を果たしてきました。地方都市の民衆駅では、モータリゼーション化により、利用者が減り、郊外の大型店の進出。加えて建物の老朽化により、駅舎の改修が行われその姿が無くなりつつあります。
民衆駅の第1号となった豊橋駅。
イ.民衆駅のいろいろ
左より、富山駅(現在は北陸新幹線開業により高架駅になっています。)、岐阜駅、和歌山駅
左より、姫路駅、広島駅、博多駅
ロ.駅ビル・合築駅のいろいろ
民衆駅は民間の資金を導入するものでしたが、鉄道事業者が資金を投入して営業を行うようになりました。民衆駅も含めて「駅ビル」と呼ばれて、利用者から好評を博しています。
地方の小さな駅では、地域のコミュニティーセンターやスーパーマーケットなど人々の交流の場にする展開も行われており、このような駅を『合築駅』と言います。
●百貨店など商業施設を中心に併設したもの
左より、函館本線函館駅、奥羽本線(山形新幹線)山形駅、上越線他高崎駅
左より、西武鉄道狭山市駅 富士急行富士山駅 東海道本線他小田原駅
左より、近畿日本鉄道近鉄四日市駅 南海電気鉄道堺東駅 仙台市営地下鉄泉中央駅
左より、八高線東飯能駅 銚子電気鉄道観音駅 富山地方鉄道上市駅
●宿泊設備(ホテル)を併設したもの
左より、中央本線立川駅、飯田線平岡駅、高徳線他徳島駅
●地域交流センターを併設したもの
左より、奥羽本線他新庄駅 東北本線利府駅 関東鉄道騰波ノ江駅
左より、加古川線他粟生駅 山陽本線徳山駅
●観光案内所、土産物店を併設したもの
左より、田沢湖線(秋田新幹線)角館駅 総武本線他銚子駅 名古屋鉄道御嵩駅
●その他( )は併設された設備
宗谷本線美深駅(バスターミナル)、宗谷本線佐久駅(ふるさと伝承館(博物館))、留萌本線留萌駅(ラジオ局)
左より、札沼線浦臼駅(歯医者さん) 伊豆箱根鉄道和田河原駅(マンション)
銚子電気鉄道仲ノ町駅(本社)、一畑電鉄雲州平田駅(本社)
⑩信号場(所)
停車場の仲間の一つです。信号場(所)には信号設備と分岐器があり、交換や追い越しといった運転取扱いが行われますが、旅客の乗降扱いを行わない特徴があります。
なぜ、駅にしないのかという疑問が出てきます。主な理由として、利用客が見込めない事や近隣の駅が近い事、運転上の理由によるもの(例:単線区間において、次の停車場(駅)まで相当離れており、途中に設ける事で列車の増発が行えるため。)があります。
●現役の信号場(所)の例
左は石北本線奥白滝信号場 右は関東鉄道常総線南水海道信号所
信号場(所)の中にはかつては貨物扱いを行っていたものや、「仮乗降場」として旅客扱い(主に信号場で働く職員さんとその家族のため。)を行っていました。これらは、JR発足と同時に駅に格上げされており、現存はしていません。
また、信号場(所)として残っているものも多くありますが、旅客扱いを始めて駅に格上げされるケースや逆に旅客、貨物扱いを廃止して駅から信号場(所)に格下げされるケースもあります。
写真左は石勝線楓駅です。利用者が皆無となったため、現在は信号場に格下げされています。(上の奥白滝信号場も同じ理由。)写真中央は函館本線姫川駅です。信号場として誕生し、旅客扱いを行うため仮乗降場を設置。JR発足と同時に駅に格上げされています。建物が高い位置にあるのが信号場の名残ですね。写真右は青梅線に存在した東川井信号場。貨物列車廃止に伴い、廃駅となっています。現在は写真左側の線路は撤去されています。
⑪仮乗降場
「仮乗降場」?臨時駅?この名前は国鉄時代にあった停車場の一つです。本来、停車場(駅)を設置するには本社の許可が必要でしたが、この仮乗降場はそれぞれの管理局(現在の支社など)の判断で設置が出来た仮の乗降場です。
多くの仮乗降場は北海道に設置されました。なぜ、北海道に多く存在したのでしょう。北海道は人口密度が低く、駅は長い間隔での配置となります。この駅間には小さな集落が点在しており、これらの場所に駅を設置すると駅舎などの高額の費用、手続きが必要であり、コスト面では見合うものではありません。このため、近隣の駅まで何らかの移動手段が必要でした。また、冬季になると道路が使用できなくなり、集落が陸の孤島になる問題がありました。通学の子供たちやお年寄りなど、鉄道を必要とする利用者の利便性を改善するため、この仮乗降場がつくられました。
それぞれの支社の判断で設置されるため、全国版の時刻表には掲載されず、ミステリアスな存在でした。勾配の都合で上下で止まる位置が異なる仮乗降場や、私有地に設置され、関係者以外は利用できない仮乗降場がありました。さらには、目撃情報はあるものの、廃線となり、一体どこにあったのか場所が判然としない仮乗降場もあります。
仮乗降場のスタイルは様々ですが、基本は見た目が『仮』であること。木の板が敷かれた簡素なもので、ホームだけしかないものや地元の人が作った待合室があるケースもあります。また、長さは1両分程度のものや数メートルだけのホームもあります。
昭和62年にJR発足と同時に仮乗降場は駅に昇格となり、仮乗降場と言う名称は消えました。
仮乗降場のいろいろ(駅に昇格後の撮影です。)
左はホームが短い「お立ち台」と呼ばれる駅。(留萌本線阿分駅) 右は1両分停車できる長さを持つスタイル(宗谷本線北剣淵駅)
仮乗降場の中にはコンクリート製(左:石北本線将軍山駅)や普通のホームのようにしっかりした駅もあります。(右:石北本線旧白滝駅)
ループ線とスイッチバック
駅の種類とは関係ありませんが、皆さんは駅の紹介でこの「ループ線」と「スイッチバック」という2つの言葉を耳にした事があるでしょうか。
鉄道の弱点の一つに『勾配に弱い』というものがあります。勾配が急であれば登る事が難しく、下り坂であってもブレーキが効かなくなってしまう。といった問題がありました。鉄道が誕生し、終戦後頃までは土木技術が未熟であり、高い所の構造物(橋梁など)や長大なトンネルを造る事は非常に困難を伴うものでした。このため、高所に至らない場合は迂回をして線路を敷く方法が採られる事もありました。
勾配を避けて、迂回(遠回り)をするイメージ。
私たちの住む日本は山岳地帯が多くあり、高所に線路を敷く必要が出てきます。特に、非力な蒸気機関車が主力であった当時、急勾配を緩和する方法として考え出されたのが、この「ループ線」と「スイッチバック」です。
①ループ線
線路をらせん状(地形に沿って)に敷設し、急勾配を緩和する目的を持った線路配置を言います。
ループ線のイメージ
図のように環状スタイルとなっているのが特徴です。この他に「Ω(オメガ)」や「S」字状の線路配置があり、ループ線の種類となっています。
ループ線は勾配緩和には有効な方法ですが、必然的に曲線が多くなり、駅間も長くなります。また、保守面の問題があります。
ループ線の例
上越線湯檜曽駅から見えるループ線の様子。上りホームからやって来る列車を見る事が出来ます。
Ω(オメガ)ループ線のイメージ。Ωループ線の代表例として釜石線陸中大橋~上有住駅間があります。
勾配を緩和する目的ではなく、環状に線路を敷設する事で折返しや方向転換を目的としたループ線もあり、『ラケット状(形)ループ線』と言います。主に新都市交通システムで見られます。
ラケット状ループ線の例
山万ユーカリが丘線 路線図を見てもわかりますが、ラケット状の線路配置となっています。
ちなみに英語では、勾配緩和を目的としたループ線を『Spiral』、ラケット状を『Balloon loop』と言います。異国の方に聞かれたり、説明をする時には注意しましょう。
②スイッチバック
ある方向から反対方向へ進行方向を転換するもので、直線的に線路を配し、急勾配を前進・後進をしながら往来する方式です。横から見ればジグザグに動いているのがわかります。
ループ線と比べると狭い場所に設置できると共に、路線距離の短縮、工費及び工期を抑える事が出来ます。スイッチバックが生まれた背景には、土木技術が未熟であったため、出来るだけ高い位置まで登り、短いトンネルを設置する事が求められたためです。
欠点として、折返し線の有効長(列車の入れる長さ)によって、列車の編成が決められてしまう事です。また、折返しを繰り返すため、運転時分が長くなってしまいます。
スイッチバックを横から見たイメージ図(左)と正面から見たスイッチバックの様子。写真は信越本線(現:えちごトキめき鉄道妙高はねうまライン)二本木駅で、黄色い線が本線。電車が入線している線が折返し線です。撮影している側にホームがあり、長野方からは本線→ホーム→折返し線→本線の順番、直江津方からは本線→折返し線→ホーム→本線の順番で列車は動きます。
●スイッチバックの種類
イ.通過不可能形
地形に沿って建設されたもので、停車場を通過できない構造のものです。主にローカル線に見られるもので、大きな高低差を得られますが、運用効率が悪いのが欠点です。写真は、木次線出雲坂根駅です。三段スイッチバックが有名です。
ロ.通過可能形
本線系に見られるもので、勾配上にある本線から折返し線が分岐し、折返し線に停車場があるものです。本線に支障が出ないため、効率は良くなりました。
車輛性能向上などにより、本線上にホームを設置し、スイッチバック構造を解消した駅もあります。
通過可能形の例
左より、篠ノ井線姨捨駅 土讃線坪尻駅 かつてはスイッチバック駅だった中央本線勝沼ぶどう郷駅
ハ.折返し形
その地点で折返す構造のもの。山岳地帯に見られるものと、建設時の経緯による『都市型スイッチバック』があります。
この都市型スイッチバックとは、駅周辺に市街地を建設する。や既存の駅に別々の路線が形成され、後に統合や廃止となってスイッチバック構造になった事を言います。
左 西武鉄道池袋線飯能駅(市街地建設) 右一畑電車一畑口駅(路線の統廃合)
二.終着駅形
路線の終着地点において、一段高い所又は低い所に駅を設置する目的で作られたものです。
意外な所にある駅
JRでは鉄道事業以外にバス事業も行っています。私鉄の場合とは異なり、JR(国鉄)のバス路線は、廃線となった路線に対し、鉄道の補助や代行の使命があり、国鉄路線の一部として扱われていました。
鉄道駅と同じ業務を行う、バス停留場は『自動車駅』の指定を受けていました。かつては貨物駅もありましたが、現在は旅客駅のみ残っています。
●自動車駅の例
例はJR関東バス 白棚線(はくほうせん)の磐城金山駅です。かつて、新白河駅と磐城棚倉駅を結んでいた鉄道路線が廃止となり、その代行として現在も活躍しています。
白棚線には鉄道の名残が各所に見られます。左は番沢停留所で、交換の出来る停留所です。待合室の配置が鉄道らしいですね。右は専用道路の様子。鉄道として使われた敷地をそのまま転用しています。