車輛限界(しゃりょうげんかい)
 「線路を学んでみよう」のお部屋で線路幅をお勉強しましたが、線路の幅が決まると上屋になる鉄道車輛の大きさを決めなければなりません。
 動かす所が決まると、鉄道、自動車や航空機、船舶でも『車体(機体・船体)』を決めます。ここが重要になる部分で、エネルギーを少なく、かつ目的に応じた機能を達する事が出来るか。つまり、高速で走行(飛行・航行)できるかやより多くの人々や貨物を運べるかなどという事です。そして、最も重要なのが『安全』である事です。機能や低コストを優先したがために、大事故になってしまう。では良くありません。なかなかこれが難しいもので、技術をはじめ、材料や製造法などを上手に選ばないとなかなか達成する事が出来ません。様々な分野の技術者は日々、その闘いに挑んでいます。

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 この車体ですが、無制限な値で造るわけにはいきません。大きな車体を造ろうと思えば造れるのですが、やはり限度というものがあります。その限度を造る会社で各々自由に決めてしまうと、同じ線路幅なのに大きすぎて走らせられない。や譲渡などで同じ線路幅だから。と貰ったは良いけど、規格が違って走らせられない。といった問題が発生し、鉄道会社では困ってしまいます。
 そこで、鉄道車輛ではある基準を設けて、そのような問題が発生しないように規格が定められています。この規格を『車輛限界』と言います。

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※単位はミリ(mm)です。

上のイメージ図は国鉄(JR)のもので、(  )内の数字は新幹線の規格です。線路幅の小さいナローゲージを使用している民鉄など民鉄各社では異なる規格となっています。
このような規格を定めることで、車輛の大きさが決められており、車輛限界が異なる鉄道会社の相互乗入れの場合は、小さい側にあわせて設計されます。
設計にあたっては寸法ギリギリまで造れる。という訳ではありません。また、最大幅や最大高さと考えられてしまいますが、トンネルや橋、ホームなど様々な設備があり、高さや形、位置などの条件に対応しなければならず、実際はもっと複雑に寸法が決められています。
車輛が動くと、カーブでは車体が内外にはみ出す(難しい言葉で『偏倚(へんい)』と言います。)事もあるほか、振動で動くことも考えなければなりません。このため、実際には最大値よりも小さめの設計となっています。
●出っ張ったり、凹ませたり・・・車体限界の工夫その1

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鉄道車輛(旅客車)は一般的には真四角の箱形(解り易く言えば、ティシュー箱のような形)に造ります。写真左はJRでは一般的な2800㎜幅の209系0番代です。真正面から見るとズドーンと垂直になっていますよね。都市部では混雑緩和を目的に車輛の定員を増やす工夫として、「車体幅を拡げる。」という方法があります。古くは特急形車輛に見られるもので、車内の空間を広くするための方法です。209系では車体幅を2950㎜に拡大した209系500番代が登場しました。(写真右)僅か150㎜(15㎝)拡げただけですが見た目がずいぶん変わっているのがお解り頂けるでしょう。裾から車体が膨らんだような断面をもつ車体を『拡幅車体』と言います。

●出っ張ったり、凹ませたり・・・車体限界の工夫その2

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旅客車に多く見られますが、車体側面に雨どいなどの出っ張っている部品がありますね。これらも設置にあたっては車輛限界の範囲内としなければなりません。わずかな値ですが、定員数増加を妨げる事にもなります。また、限界値が厳しい設定の会社では車体に出来るだけ出っ張った部分は押さえたいのです。

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そこで考え出されたのが、写真のように屋根部分まで外板をのばした構造にしたものです。これを『張上げ屋根』と言います。屋根部分に雨どいなど側面にあって、出っ張る部分を設置する構造です。デザイン的にもすっきりしており、更新車などでも採用されている例があります。

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この他にも、車体上部に向かって窄ませた構造の車体もあります。写真は客室窓から上に向かって傾斜している様子がわかりますね。

建築限界
 鉄道は他の交通機関とは異なり、線路上に障害物があった場合、これを自由に避ける事が出来ない欠点があります。列車や車輛の運転の安全を確保するために定められた範囲に障害となる建築物などを設置してはならない。というルールがあり、これを『建築限界』と言います。皆さんが目にするホーム、ホームの屋根など線路際にあるものは建築限界の外に設置されているのです。ただし、信号機や点検台などは通常の建築限界を狭めて設置されている場合もあります。また、電化している鉄道に見られる架線は建築物としてみなしていません。

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 イラストの建築限界は国鉄(JR)のもので、単位は㎜(ミリ)です。また、(  )の数値は新幹線のものです。鉄道事業者や電化、非電化の有無、電化では直流、交流の違い(絶縁距離の違い)や直線と曲線など多岐にわたって数値が異なります。

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大まかな目安として、線路中心から左右に2mずつ(道床のバラスト幅内が車輛限界です。)、高さは非電化で4.5m、電化で6mとなります。(ただし、第三軌条集電方式は除く。)写真のような感じですが、安易に近づいてはいけません。危険と判断された場合、列車が非常停車して怒られてしまいます。

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新しい路線が開業する直前や電化をするなどの際に、「建築限界測定車」という試験車輛(写真左)があり、車体の周囲に矢羽根を広げて接触するかどうかを確認します。ちなみにこの矢羽根を広げた姿が花魁(おいらん)の簪(かんざし)に見えることから、「オイラン車」とも言われます。また、保線作業員により治具を使用して、限界を測定する姿も見られます。
この他に、建設された時期や経緯(もともと非電化で設計され、後に電化など)に理由で、他の線路とはつながっているものの、特定の車輛しか走行できない。といった例もあります。例えば、中央本線高尾以西トンネル区間など。

鉄道車輛の長さ
 高さや幅が解ったでしょうか。鉄道車輛では安全のために車体の長さも決められています。車輛の長さを車体長と言い、連結器から反対側の連結器までの長さを言います。

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 車輛の長さを決める大きなポイントは『曲線』です。曲線を通過する際に、隣の車輛や建築限界に触れないか。つまり、長くなれば長くなるほど曲線においての偏倚量が大きくなり、車輛限界と建築限界の間にある余裕すらも超えて、障害物に接触してしまいます。この事から限度があります。
長くする方法(工夫)として、車体幅を細くしたり、裾を絞ったりする事で長くする事が出来ます。例として、新幹線の先頭車輛が中間車より長いというのがあります。
 車輛を支える輪軸(車輪)がありますが、輪軸の間隔を『軸距離』と言います。自動車でいう「ホイルベース」というものです。写真左の2軸車のように車体に輪軸が固定されている車輛はその軸距離を「固定軸距離」と言い、写真右のようなボギー車では、台車内の隣接する輪軸の距離を「軸距離」と言い、台車の中心との間隔を『台車間隔(ボギーセンター間距離)』と言います。
この間隔は制約があり、隣接する輪軸の間隔が狭いと「蛇行動」が発生する問題がある事から、下限が決められています。一方、離れてしまう、つまり間隔を広くとっても偏倚量が大きくなる問題や軌道回路を利用した列車や車輛の在線位置を検知するシステムでは、検知に失敗する事がある恐れから、この長さも上限が決められています。
ちなみに、ボギー車の台車中心から車端部に向かっての長さを「オーバーハング」と言い、この部分が長いと建築限界に触れる事があります。

鉄道車輛の構造

1.外観の名称

 車輛の紹介でいろいろと言葉が出てきますが、ここではもう少し詳しく説明をしましょう。まずは、外観から見た名称を見てみましょう。

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 多くの鉄道車輛は車体を箱形の形状とした構造をしています。つまり六面体ですね。外観では、車体の底面に当たる部分を『』や『台枠』と言い、その上の左右には『』、前後には『』(運転台のある面は『前面』や『先頭』とも言う。)、そして上を覆う『屋根』があります。これらを総称して『構体』と言います。
●台枠
車体の基本となるもので、全体の強度を受け持ち、台車や車軸に重量を伝えるほか、連結をすると隣の車輛間での力の伝達も担います。
かつて木造車輛の時代の旅客車は、台枠が単独で荷重を負担する仕組みでした。つまり、台枠より上の部分を載せた形で、妻面や側面は自らの強度が保てる強度で設計されていました。木造車は衝突事故の際に木端微塵になってしまう事が多く、安全上問題がある事から、鋼材や鋼板を使用し外観を金属製とした半鋼製車、内装にも金属を用いた全金車が誕生します。この半鋼製車、全金車と言われる車輛も木造車と構造は同じで、上屋、床下機器、貨物や旅客の荷重、連結時などの衝撃を全て負担していました。
このように台枠は鉄道車輛の強度を保つ重要な部分であり、衝突事故などによって破損、変形した場合は修理が難しいのが特徴です。損傷や歪みは強度が著しく低下する場合が多く、構体全体を歪ませたまま走らせるのは非常に危険な事なのです。切り継ぎや補強もし難く、外観は大したことがなさそうでも、結果廃車となってしまう場合もあります。逆に車体が大きなダメージを受けていても、台枠にダメージが無い場合は車体の新造などの方法で復帰させる事もあります。
台枠に求められるのは「曲げ強度」。あらゆる方向から受ける力に対して変形をしない構造が求められます。梁(りょう・はり)を「ロ」の字形に組み合わせるのが基本の形。車輛は細長いので、はしご状に梁を入れるなど、車輛の仕様に応じて枠の形状や梁の配置が決められていきます。
その梁には次のような名称があります。

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■側梁(がわりょう・がわばり・そくばり)
外側面の長手方向に配置される梁です。中央部で大きな曲げ応力を負担しています。貨車の一部や旧型旅客車輛では、この負担のかかる部分を縦方向に大きくしたものがあり、魚のお腹に見えることから「魚腹構造(ぎょふくこうぞう)」や「魚腹型」とも言われています。

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■端梁(たんりょう・たんばり・はしばり)
前後の横方向に配置される梁です。先頭車では衝突時に台枠が、相手の台枠に乗り上げて構体(車体)を破壊するのを防ぐ目的で、「アンチクライマ」という部材が装備されている車輛もあります。

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■枕梁(まくらりょう・まくらばり)
台車を取り付ける部分の梁で、ボギー台車の心皿はここに設置されます。台枠の前後にあり、車体重量を台車に伝える大事な梁です。
■中梁(なかりょう・なかばり)
台枠の進行方向前後に設置される縦方向の梁です。枕梁から端梁までの中梁には連結器が設置され、牽引力やブレーキ力といった前後方向の力を連結器を経由して他の車輛へ伝える重要な梁です。
■その他の梁
強度によっては、縦方向に細い中梁や横方向に横梁が追加設置されます。また、床の重量や床下機器を吊り下げる目的で梁が設置される事もあります。

それぞれの梁は、曲げ方向の変形に耐えられる事。また軽量である事が求められています。このため、断面が「□」(四角形)、「コ」(この字形)(これをチャンネルと言う。)、「エ」(エの字形)が用いられています。この後出てきます、アルミニウム合金を使用した場合は断面形状や断面積などが自由に設定できる押し出し材などを用いています。
●貨車の台枠
多くの貨車の台枠も旅客車と同じ設計となっていますが、ボギータンク車の一部ではタンク体をモノコック構造とし、かつ強固な設計を持たせる事で、枕梁間の中梁や側梁を省略した形式があります。タンク車の台枠を軽量化(枕梁間の中梁及び側梁を省略。)し、その分を積載量に増加する構造の開発が行われ、昭和37年に登場したタキ9900形式で初めて実用化されました。その後、この構造はタキ43000形式、タキ1000形式(JR貨物)などで採用され、『フレームレス構造』と呼ばれています。

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●側構体・妻構体

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鉄道車輛の左右、側面を『』と言います。側の外板を支える柱を「側柱」と言い、これを含めて『側構体』と言います。そして、前後を『妻』と言い、こちらも外板を支える柱を「妻柱」と言い、これを含めて『妻構体』と言います。
●側構体(がわこうたい)

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外板にも名称があり、客室窓より下の板を「腰板(こしいた)」、窓より上の板を「幕板(まくいた)」と言います。旅客車では客室窓のほか、乗降扉などの開口部が多くなり、その周辺にたくさんの柱を設置する必要があります。
さて、台枠と側構体、妻構体まで説明しましたが、これらは鉄道車輛で『普通鋼』と呼ばれる材料を使用した場合のものです。「普通鋼」?とは聞きなれませんが、一般的に言われる「」というものです。もともと鉄は私たち人類にとっても身近な存在で、産業革命以降は爆発的に普及し、「産業の米」や「鉄は国家なり」などの言葉が生まれた事でも知られています。日本では旧字体で『鐵』と書き、分解すると「金(かね)の王なる哉(かな)」と言われており、重要性が窺い知る事が出来ます。
実際、鉄はそのもの(Fe)だけでは使いません。鉄そのものでは柔らかいので、「炭素」というものを含ませた合金として使用します。(実際にはその後の鍛造や熱処理などの加工技術が必要。)その炭素の含有量により「鋼(はがね)」という大きなくくりが出来、炭素鋼と呼ばれる分類になります。この炭素の含有量によって柔らかくも、硬くもなるのです。鉄道車輛では0.6%以下の普通鋼が一般的に使用されています。この他では、蒸気機関車のボイラーに使用されるボイラー鋼というのもあります。
前置きが長くなりましたが、この鉄を使用すると丈夫な事が利点になります。この鉄で出来た車輛を「鋼製車」と呼びます。

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初期の鋼製車では接合に『リベット』(写真左)が用いられていました。一般的に鉄と鉄をくっつける溶接技術のアーク溶接は1800年に電池が発明され(ボルタ(伊の物理学者)、電極間の火花を研究して、1865年にアーク溶接が生まれました。日本には昭和初期に輸入されてきます。このアーク溶接は電気溶接とも言われ、日本でも一般化すると鉄道製造技術に採り入れられ、たくさんの車輛を生み出しました。アーク溶接でつくられた車輛をよ~く見てみると(写真右)、継目にあとが残っている事もあるので判ると思います。

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窓や乗降口など開口部が多い旅客車。木造車でも同じですが、そのままでは歪んでしまいます。窓の上下に補強を入れる事が行われました。これを『ウインドゥ・シル/ヘッダー』と言います。シルは下端という意味で、窓下に。ヘッダーは上端という意味で窓上に設置される補強板です。その後、外板裏側に片方又は両方を設置する車輛もつくられました。その後、全金属軽量車体が開発されると同時に、窓枠も木枠だったものが、Hゴムやアルミサッシといった軽量なものが普及し始め、シル・ヘッダー構造は必要としなくなりました。同じ形式で、ウィンドウ・シル/ヘッダーの無い車輛の車体をノーシル・ノーヘッダーと呼ぶこともあります。

このように鉄をそのまま使った車輛は丈夫であり、先頭車化改造、設計変更に柔軟に対応できるなどの利点がありますが、欠点として「重い」という事。重量が大きくなると、スピードアップ(高速化)の妨げになるほか、エネルギー面でも負担が大きくなってしまいます。
そこで、軽量化を考えなければなりません。まず、鉄の材質の見直しです。プレス鋼板を用いて軽量化を果たしました。しかし、旧態依然の設計には変わらず、さらに軽量化を行うために航空機に開発された技術を用いることにしました。
それが『モノコック構造』というものです。「モノコック」とは、ギリシャ語で「ひとつの~」という意味の接続後monoとフランス語の「貝殻」を意味するcoqueを組み合わせた言葉です。日本語では張殻構造(はりがらこうぞう)応力外皮構造と言います。
側構体や妻鋼体に柱を用いていましたが、これを必要最小限とし、外板には必要最小限の加工をして、柱が受ける力の負担を担おうというものです。このような構造にすると、軽量化のほか、室内を広くする事が出来る利点があります。身近に見られるモノコック構造として、卵や亀の甲羅があります。普通鋼を用いりながら軽量化が図れるメリットは魅力的でしたが、外板を薄くして設計する事により、経年による強度維持が難しい、冷房化などが難しいという欠点がありました。
ボギー車は2つの台車で車体を支え、台車を支える梁に荷重を負担する構造で、前後の力も加わります。この力を外板で支持するのがモノコック構造。この考えを進め、車体全体を四角の管のような構造にすればよいのではないか。という事で『セミ・モノコック構造(準張殻構造)』が生まれました。この構造では開口部はフレームで補強されている点が異なります。この構造第1号が国鉄ナハ10系客車です。
床に波形鋼板(キーストンプレート)を張り、前後の力を担わせて中梁を省略、側梁、側柱、垂木を同一断面に配置し、鋼板を張る事で車体全体を一つの梁とした構造となっています。

 鋼製車に使用される鉄は重いので、他の材質が使えないか。という事で、最初に登場したのが「ジュラルミン」です。アルミニウムと銅、マグネシウムなどを混ぜたアルミニウム合金の一つです。鉄砲の弾に使われる薬莢(やっきょう)の製作中に偶然発見されたもので、モノコック成形に最適な事から航空機用の資材として有名です。このジュラルミンを戦後、国鉄の鉄道車輛(モハ63系やオロ40形式など)に使用しました。特に63系電車は有名で「ジュラ電」と呼ばれ注目されていましたが、耐食性が低い材料であるのに塗装を施さず、戦後の混乱期もあり絶縁が不十分であった事も加わって、7~8年程度で腐食と電食が進行したため、短命に終わってしまいました。

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鉄は車体の腐食が起こるため(錆(さび)の発生)、錆が発生しない材質として『ステンレス鋼』が使用されました。「ステイン:Stain(汚れ)」と「レス:Less(ない)」という意味で、「ステンレス」、「ステン」、JIS(日本工業規格)においての略号「SUS(サス)」とも呼ばれています。
鉄を主成分(50%以上)とし、クロム(Cr)を含むさびにくい合金鋼です。さびにくいという意味ですが、ステンレス鋼は含有するクロムが空気中で酸素と結合し皮膜を形成するのがポイントで、この皮膜により錆が発生しないのです。つまり、傷がついてしまうなどの事が起こるとそこから錆が発生してしまいます。鉄では錆の侵食を抑える錆止め、車体の塗装が必要ですが、ステンレス鋼ではこれらが不要となり、保守の大幅な省力化が図れるメリットがあります。ステンレス鋼を最初に使った車輛は国鉄EF10形式で、関門トンネルに使うための車輛です。このトンネルでは海水の漏えいによる対策として採用しました。
初期のステンレス車はステンレス鋼を外板のみに使用し、骨組みは鉄でした。この車輛を『セミステンレス車輛』(帝都高速度交通営団(現:東京メトロ)ではスキンステンレス車輛が公式名称。)と言います。その後、構体や台枠にステンレス鋼を使用した『オールステンレス車輛』が普及して、現在でも製作されています。
ステンレス鋼は普通鋼よりも丈夫ですが、軽量化とコスト低減を図るために極限まで薄くつくられています。また、溶接も従来のアーク溶接ではなく、スポット溶接(点溶接)という方法が用いられます。薄いため、この溶接には技術が必要ですが、どうしても歪みが出てしまうため、新車なのに見た目がボコボコとなってしまいます。

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この歪みを少なくするため、また補強を兼ねて『コルゲート(Colgate)』という外板を凸凹状にしたものが考えられました。模型では、某社でステッカータイプがあり、貼り付けるのに難儀を要するあれです。

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少し時代が進むと、『ビード』と呼ばれる半円弧状のものを数本配して、強度を強化し、見た目もすっきりするようになりました。しかし、スポット溶接のあとがかえって目立つような。

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近年の車輛では、ステンレスの加工技術や溶接技術の向上により、歪みが抑えられるようになった事から、凸凹の無い滑らかな仕上がりに変化しています。
★ブロック工法

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これは車輛製作メーカーの一つである日本車輌製造(日車)が開発した製作方法です。このブロック工法は造船技術がもとです。大きな船体を一括で造ろうとすると広大な場所が必要なほか、建造期間が長くなり、効率も悪い。そこで、いくつかのパーツにわけてそれぞれを製作し、最後にひとまとめにしてつくる画期的な方法です。
鉄道車輛では側構体の組立てが同じで、車体全長と同じ長さの骨組みに幕板、腰板、乗降扉の部分に枠をつけて組み立てていましたが、広い場所が必要であり、特に幕板は長いために、組立時の取扱いが難しい問題がありました。そこで、側構体を車端部、中間窓部、乗降扉部などといくつかのブロック単位とし、それぞれを製作後、それらを接合し側構体とする方法で、ステンレス製車輛を低コストでつくる事が可能になりました。この製作方法(工法)を『日車ブロック工法』や『日車式SUSブロック構体』と言います。
低コストに仕上げられるメリットはまだあります。鉄道車輛は各鉄道会社が設計図を製作し、それを基に製作する、ある意味オーダーメイド的なものです。上のイメージ図を基本として、ブロックを入れ替えることで、下のイメージ図のように両運転台構造(上)や乗降扉の数を変更(下)する事も容易に行えます。

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※日車ブロック工法で製作した電車の側面の様子。乗降扉上部の幕板がポイント。

 鉄に代わる素材としてジュラルミンを使用していた事がありましたが、この時は航空機を造るために用意した材料で、余ったものを使用し、鉄道車輛には不向きな材質と技術の未熟さが災いし、長く続きませんでした。
 ステンレス鋼が使用されはじめましたが、ステンレス鋼は錆びにくい。というもので、錆びない材質に『アルミニウム合金』があります。鉄道車輛向けにはアルミニウムを主成分にマグネシウムや亜鉛を混ぜた、最も硬いものが使われています。
 利点や欠点はステンレス鋼と似ており、利点として腐食に強く、軽量化が図れること。アルミニウム合金はさらに、リサイクルがし易い。という特徴もあります。一方、欠点では溶接が難しい、破損してしまうと修理が困難。これは、先頭車化改造といった改造も難しい。という事です。アルミニウム合金は無塗装でも構わないのですが、ステンレス鋼と比べると光沢が低く、汚れが目立ってしまう。という欠点もあります。結果、無塗装車が少ないという理由にもなっています。
 ステンレス鋼と比べると高価であるため、初めての採用は昭和28年に南海電気鉄道鋼索線のケーブルカー車輛となります。一般鉄道車輛向けは、昭和35年に登場したタキ8400形式アルミナ専用タンク車で、その後類似の形式(写真はタキ8350形式で、タキ8400形式とほぼ同じ外観です。)がPR用に近い形で登場しました。

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昭和37年に山陽電気鉄道2000系、昭和41年に国鉄301系、帝都高速度交通営団(現:東京メトロ)5000系と採用例が続き、その後アルミニウム合金車が少しずつ増えていきます。

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初期のアルミニウム合金車(写真は国鉄381系)は、板材を切断し、プレス曲げをした外板と骨組みで構成し、MIG(ミグ)溶接やスポット溶接を用いて接合していました。構造や組立て方法は鋼製車輛とほぼ同じとなっています。

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技術が進むと、材料の加工方法が変化し始めました。押出し成形という方法が採用されました。この押出し成形というものは、簡単にイメージをするとアルミニウム合金を一度溶かします。溶けたものを容器に移し、上から高い圧力を加え、出口につくりたい形の断面を設け、その隙間からアルミニウム合金が出てくる。というもの。夏によく食べる「ところてん」のような感じと思って頂ければ解り易いかな。身近なアルミ製品に見られますよ。(カーテンレールやアルミの柵など)この押出し成形で得られた素材を押出し成形材と言い、大形のものも出来るようになっていきます。
アルミニウム合金は外板と骨材を溶接する際に、アルミニウム合金は熱伝導率が高く(熱が伝わり易い)、低い温度で溶けてしまう性質のため、溶接技術は高度な技術を必要としていました。この押出し成形を用いて、外板の一部に骨材を一緒につくる事が考えられました。これにより、構体を製作する時に溶接する部分が大幅に減らせる事が出来ました。この方法でつくる構造を『シングルスキン構造』と言います。
さらに、押出し成形技術を進め、下のような押出し成形材をつくりました。

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従来、構体を形成するためには、外板と骨組みとなる側柱や妻柱、梁が必要でした。これを一体にまとめたもので、『ダブルスキン構造』と言います。段ボールの断面のように、2枚の板の間にトラス状の補強部材があり、骨組みを必要としなくとも強度を保てるという仕組みになっています。丈夫な構造であるため、たわみが少なく、シングルスキン構造では柱や梁といったものが必要で、出っ張りがありましたが、ダブルスキン構造ではそれらが不要であるため、室内の空間を広く取れます。また、隙間に制振材を入れる事が出来、客室内の騒音を低く抑えることも出来ます。車体全体がほぼ一体化された事により、製造工程の簡略化、コスト低減も図れます。
溶接技術も進化し、最近では摩擦攪拌接合(FSW)を主流としています。
★摩擦攪拌接合(まさつかくはんせつごう)とは。

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英語ではFriction Stir Welding:FSWと言います。先端に突起のある円筒状工具を回転させながら、強い力で部材の接合部に押し当て、貫通させます。貫通する事により摩擦熱が発生し、工具の周辺の部材は溶けてきます。この溶けたものを練り混ぜて一体化させる接合方法です。アルミニウム合金など、軟化する温度が低い軽金属に用いられています。複雑な形状の接合や板厚に制限があるなどの欠点もあります。

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ダブルスキン構造や摩擦攪拌接合といった技術を用いたブランドもあり、それが日立製作所のA-trainです。これは、日立製作所が開発した鉄道車輛の製造技術で、車輛製作には熟練した職人が必要ですが、人口減少などにより技術継承が難しいため、また環境問題などに応えるため、生産方式を抜本的に見直した製作方法です。
構体をオールアルミダブルスキン構体とし、内装はモジュールとして設計。これは、構体を製作する傍らで、車内の内装(運転台、トイレなど)を並行して製作し、構体が完成するとそれらを持ち寄って、構体に予め設置されたガイドレールに端部から差し込むように入れて、それらを指定箇所に固定していくというもの。最後に端部の妻板を設置して完成。と様々な個所を単純かつ簡素な構造とし、数万点あった部品を百数点まで削減するといった特徴があります。

●妻鋼体(つまこうたい)
鉄道車輛の前後に設置される構体の部分を言います。構造は側構体とほぼ同じなので、参照して下さい。
妻には様々な呼び名があります。

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車体の端を垂直に切り落とした構造を『切妻(きりつま)』と言います。シンプルな設計なので、設計し易いのが特徴。

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両側が後退したようなスタイルの構造を『折妻(おりづま)』と言います。解結作業のある車輛に多く見られるスタイルで、スペースを確保する事で作業をし易くしています。

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切妻や折妻以外の形状をしているものを『曲面妻(きょくめんつま)』や『丸妻(まるづま)』と言います。
隣り合う車輛があり、旅客や乗務員が往来する事が必要とされる場合は、貫通路が設置されます。この構造を貫通形貫通構造と言います。また、先頭車になる車輛や機関車などには運転台が設置されます。客車では車掌室の設置が行われる事もあります。
運転台部分及び先頭部分の形状は、外観を重視して設計をする事もあり、複雑な形状となる場合があります。特に高速で走行する新幹線車輛や特急形車輛においては『流線形』というデザインを採用する事もあります。

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※美しい流線形と称される新幹線車輛の例。デザインは航空機にも似ていますね。

鉄道では、下の写真のような事故が稀に発生します。(写真は模型です。ご安心下さい。)

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踏切事故』です。かつては、踏切が数多くあり、保安設備の有無などの理由により数多く発生していました。現在では踏切設備の改良や立体交差化による廃止などで、年々発生件数は少なくなっています。

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古い鉄道車輛(旅客車)では、輸送力を重視した設計であり、乗務員室はとても狭くつくられていました。(矢印の部分)このため、ダンプカーなどの大型自動車と衝突すると、乗務員室乗降口(開口部)が衝撃に弱い事から乗務員室は激しく潰れてしまいます。潰れた乗務員室に運転士は残されたままとなり、最後に救出されます。潰れた運転台からの救出はとても大変です。(運転士はその列車の最高責任者であり、いかなることがあっても乗客の救出が優先されるため。船舶(船長)や航空機(機長)と同じ。)
踏切の改善の一方で、車輛も改良が求められます。

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103系の例で見てみると、低い運転台であったデザイン(写真左)を高い位置に変更(写真右)にする改良が加えられました。

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115系の場合、狭い運転台を後方に拡大し、衝撃を緩和させるデザインに変更しています。

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このような構造の変化のほか、高速走行の多い特急形車輛は視認性を向上させるため、高い位置に運転台を設置する事が基本となりました。
国鉄からJRへ移行し、JR東日本では平成4年に発生した成田線の踏切事故を教訓に、運転台を衝撃吸収構造を持った構造とする事としました。(E217系より採用。)

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外観では余り変化がありませんが、運転士の座る運転台部分は強固な設計とした「サバイバルゾーン」(ハート部分)、衝撃時に衝撃力を吸収する「クラッシュブルゾーン」(雷マーク部分)の2つの構造とし、乗務員の保護を図っています。万が一衝突した際は、客室内からも救出できるように脱出口が備えられています。同社の通勤形電車や近郊形電車に見る事が出来ます。

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JR西日本では平成17年に発生した福知山線脱線事故を教訓に、運転台廻りの構造を見直しました。運転台上部の強度を弱くし、衝突時にこの力を上方へ逃がす構造で、『ともえ投げ方式』と言います。
近年の車輛では、運転台部分を強固に設計する工夫が行われています。また、ステンレス鋼、アルミニウム合金を使った車輛では、材質が共に複雑な形状の設計が難しいため、先頭部分のみを鋼製やFRP(強化繊維プラスチック:Fiber Reinforced Plastics)を使用している例も多くあります。

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※前頭部分にFRPを使用している車輛の例。縁取りの色は白や銀色などがあります。

●屋根構体

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屋根構体とは、鉄道車輛の天井、屋根部分を構成する部分を言います。無蓋車やタンク車など貨車の一部には屋根のない車輛もあります。

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内部の構造は、左右方向に『垂木(たるき)』という骨組みが組まれて屋根を支えます。車輛が長い場合は、前後方向へ『長桁(ながけた)』という梁が設置されます。

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近年の車輛は冷房装置が設置されており、屋根上に室外機を設置する事が一般的で、重量があり、かつ開口部が大きいため、その分に耐えられる強度が求められます。この他に冷房装置の風道や照明器具、屋根上には屋根上を歩く為のランボード、雨どいなどが設置されています。